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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter18

アンジェラ 三菱 アウトランダー 30G 2009年式
Angel-A ~ Mitsubishi  Outlander 30G 2009 ~

神様の気まぐれか・・・
突如降り始めた雪は 
願いも空しく 一向にやむ気配を見せなかった
一時間前・・・

「会場まで 大至急カイロを持ってこい!」

ボリュームを最小にして 顔から離しても
聞こえてくる 怒鳴り声  
いつものことだが カチンとくる・・・

『どんなことがあっても クライアントを一番に考えろ』
これが 上席の口癖だったが
それは 彼自身のクライアントだけを指すようだ
僕は 自分のお得意様との約束を反故にして 
イベント会場に向かった 

そして・・・午前零時を回った今・・・
僕はアウトランダーの前に立っていた
イベント会場までは 
まだほど遠い 
雪の積もった橋の上・・・
6B31 MIVECエンジンを積んだ4WDをもってしても
ノーマルタイヤでは 今日の雪道は 無理があった

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「本当に オレは ついてない!」

僕は 愛車に向かってつぶやいた
優に20cmを超えた積雪で 
アウトランダーの脚は完全にスタック 
橋の頂点間近のところで 動かなくなった
慌ててJAFに連絡を取ると 到着には5.6時間かかるという
諦めて 上席に連絡を試みようとしたが 
携帯は電池切れになっていた
近隣には 民家も見当たらない
ダメもとで 踏んだアクセルで テールが滑って のの字を書いた 
アウトランダーが 
Kusu! Kusu! 笑った 

「笑うなよ!」
車に向かって 雪玉を投げつけた その時!

ZudeeeeeeeeeeeeeeeeeeN!

足を取られて ひっくり返った・・・

Crossroads

Fufufufu・・・・ Ahahahahahaha・・・

!!

目の前に Marc by Marc Jacobsの
黒いフェイクファーコートを着た女性が 立っていた

「人の不幸で高笑いとは 失礼だな!」

そう言いながらも
車体に写った自分を見て 僕もプッと吹いた

カノジョを車内に案内した僕は 
先刻から気になっている質問を投げかけた

「こんなところで 何をしてたの?」
するとカノジョは うつむき加減になって言った

「死のうと思ってたの・・・」

!!

女一人で
設計会社を切り盛りするカノジョは
情に流され 
クライアントから正規の報酬を受けとらずに 
多額の借金を抱えていた 

「でも 私よりついてない人を見つけて・・・
 なんだか 死ぬのが馬鹿らしくなたわ」

カノジョの心変わりにホッとしたが
僕は 自分の存在価値が 
悲しい位置付けであることを 改めて確認した・・・ 

「寒くてごめん・・・」
カノジョに謝った
アウトランダーの燃料は 底をついていた 
いつ救助が来るかわからない状況では エンジンは廻せなかった

「この真冬に 海に飛び込もうと思ったのだから 平気よ!」

そう言う カノジョの体は 
間違いなく冷え切っていた

そうだ・・・
後部座席を見ながら
僕は ・・・まあいいか と呟いた

僕とカノジョとアウトランダーは
山盛りの使い捨てカイロで ぽかぽかの一夜を過ごした

翌朝 JAFに救助されたアウトランダーは 
カノジョを Stationまで送った

これでお別れか・・・
しかし 臆病で ツキのない僕は 何も言えなかった

Chu! 

突然 カノジョが僕の頬にキスをした 
車を降りると 
足早に改札へ向かうカノジョの背中に
再び降り始めた 
雪が舞いあがり 大きな羽を広げているように見えた

アンジェラか・・・

夢を見ているような気分になっているとき・・・
突然 充電中の携帯が鳴った

「お前 どこで 何やってたんだ!」
上席の怒鳴り声だ

いつも通り・・・ 
携帯の向こうに向かって 頭を下げたとき 
助手席に 
カノジョの携帯を見つけた

また 天使に逢える・・・

叫び続ける携帯電話に向かって
うるさい!!
と一言!! そして 僕は携帯をOFFにした

僕には 天使がついている 
雪が舞う空を見上げて
もう少し 自分を信じてみようと思った





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