じいちゃんの左手　その74

学校から帰ってくると　
縁側には　いつも　群青色の市場帽子を斜にかぶった　じいちゃんがいた　
右手にワンカップ　左手には　“わかば”　
田んぼの案山子のように　僕の問いに　何でも答えてくれた　じいちゃん
今思えば　ほとんど　的外れだったけど　心は　いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと　あの縁側が　今もあったら・・・　
きっとこんな　会話になっただろう・・・

『マーチ』

３月に入ると　じいちゃん　毎日ハウスで　野菜の苗育成や
畑にマルチを貼って　春の準備に大忙し
昼休みで帰ってくると　腰を叩きながら

「あー　今日も　ガンばった～」
半日で　自分を思い切り褒めながら　ワンカップを　ごくり

「マーチだけに　マーチに待った　暖かい３月がやってきたね」
ガッコ―で習ったばかりの英語を使って
ダジャレを　おみまいする僕・・・　だったけど

「当たり前じゃ！　なにせ　サンガツだからな！」
ニヤリとじいちゃん

ん・・・　どういうこと？？？　疑問符いっぱいの瞳の僕

「ナンジャ　お主！　英語だよ　エイゴ！
　『サン』は　お日様！　ツーは『二つ』　じゃ！
　お日様が　二つもあれば　暖かくて当然！！」

Gahahahahaha 　と　大笑いのじいちゃん　一本取られました・・・

「しかし　お主！　　子供がパチンコなんか　行っちゃいかんぞ！
　あそこは　『わかば』だけじゃなくて　
　外国もんのタバコの煙も　いっぱいだからのぉ」

子供には　どんなタバコの煙もダメだと思います・・・　※神の声

「そんなこと　知ってるよ　でも　なんで急にパチンコが出てきたの？」

そりゃ　お主・・・と　じいちゃん
「マーチ　マーチって　言うからじゃ　マーチと言えば　パチンコ！じゃ」

あ～　軍艦マーチのことね・・・　

じいちゃん　わかばを一服！
Pufaaaaaaaaaaaaa　と煙を吐いたあと
地下足袋を　掃きながら　ワンカップを　しっかり飲み干し
よっこらせと立ち上がった　
そのとき　
有線放送から　アイドル歌手の歌謡曲が流れた

♪　ギンギラギンにさりげなく　近藤真彦　♪

「お～　マーチ　か！」
じいちゃん　ラジオに合わせて　鼻歌を謳いながら　畑に向かった

♪　いつだあって～　どこまあでも～　”酒”と　”わかば”　のんでいけ！
　　HA・TA・KE・SI・GO・TO！（畑仕事！）
　　ギンギラギンの　お日様！　コイツが　オーレの　のみ方～　♪　

じいちゃん・・・　いつも言ってるよね
それ・・・　マーチじゃなくて　マッチだよって　

※　神の声
それは　じいちゃんのせいでは　ありません　ニッサンさんの　責任です