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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter27

あしたのジョー ~ トヨタ アクア NHP10 2011年式 ~
Tomorrow's Joe ~ Toyota Aqua NHP10 2011 ~

「夕日が どうしてオレンジなのか 知っているかい?」

オレンジ色に輝く
アクアのボディを指しながら 僕は言った
アトキンソンサイクルエンジンとモーターで構成された
アクアのHeartは
トヨタ製ハイブリットの汎用スタイル
しかし 70%が新設計の改良型は 
風切り音が Classicの奏でに聞こえるほど
上品な車内空間を構築する

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「地平線に近い太陽の光は
 空気のフィルターをたくさん通過してくるから 
 波長の長いオレンジが目に届く・・・でしょ?」
学生時代 天文部に在籍していたカノジョは 
適格な回答を返してきた

Chi Chi Chi・・・
僕は 人差し指と中指を左右に振りながら言った 
「君の答えは なかなか上等だが 世界じゃ2番目の回答だね」
子供のころ見た
ヒーローのような素振りに カノジョは吹きだした

「それじゃ どうして?」
運転中の 僕を覗き込むように
助手席からカノジョが聴いてきた・・・

僕の記憶の始まり~
畦道に沈む夕日 その中に現れる父の姿
僕を産むとすぐに亡くなった母 父と僕の二人だけの家族
小学校に通う前の僕は 
オレンジ色の太陽の中で 父さんが働いているのだと信じていた

小学生のころ~
弱いくせに 理不尽なことが許せない僕 
毎日のように 
クラスのガキ大将とケンカをしては泣かされていた
校舎の屋上で 夕日に向かって一人泣く僕を 
担任の先生はいつも慰めてくれた
「お前は立派だ」
先生は 僕の頭をくしゃくしゃになるまで撫でてくれた

野球部に所属していた中学時代~
河原のそばにあるGrandで 
我武者羅に練習した
それでも3年間 一回も勝てなかった 
試合が終わるたびに ひとり涙をためながら夕日を眺めた

高校時代~
恋をした
遠くから 見守る片思い
夕日が鮮やかな放課後 
ありったけの勇気を振り絞って 告白しようとした
しかし・・・
オレンジ色に輝くカノジョの瞳には 僕の親友の姿が写っていた
告白の機会を失った僕は 夕日に向かって叫んだ
「バカヤロー!」

こうして僕は 車のディーラーに就職した 
得意先廻りに明け暮れるが
営業成績は上がらず いつも上司に罵倒されている
そんな 僕を優しい笑顔で迎えてくれた受付の女性 
夕日に照らされた 
カノジョの笑顔に 何度救われただろう 

そのカノジョが今 助手席から僕を見ている・・・ 

夕日にまつわる エピソードが
頭の中を駆け足で巡る中 僕はカノジョに言った

「世界中で 傷ついたハートの持主から流れ出る赤色吐息 70% 
 痛みを乗り越え 良い一日を実感した人から生まれる黄色笑声 30%
 7:3の黄金比率 これが夕日をオレンジに輝かせる理由さ」

進行方向に見える港 
その向こう側で沈もうとしている夕日
僕は そこに矢吹ジョーを見た

「お前は これまで本当に真っ白になるまで 戦ってきたかい・・・」

ジョーがつぶやいた・・・ような気がした

4/14はオレンジデー 
愛を確かめ合う日 
そして僕が 
カノジョにプロポーズすると決めた日 

「このあと どうする?」

カノジョの問いに僕は言った

「オレンジデーだけに 俺ん家で・・・」

カノジョは 座布団一枚分の笑顔で答えた

真っ白にはなれなかったが 
僕は幸せの黄色いハンカチを手にした


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hiropapaman
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