見出し画像

映画と車が紡ぐ世界chapter151

ターミネーター・ 新起動/ジェニシス:シボレー・シェベル SS 1970年式
Terminator GenisysChevrolet Chevelle SS 1970

後悔ばかりの人生だった

「君なら インターハイに出られる」
その話にのっていれば 名門高校に入ることができた
 
「君! うちの会社に来ないか」
社会人5年目の春 
俗に言うヘッドハンティングじみた経験もした
しかし・・・ いつも 一歩 踏み出せなかった
そんな僕にも 恋する季節は訪れた 

会社のアイドル的存在の カノジョは
厚さ8mmの防火ガラスの向こうから 微笑みを 浮かべて手を振ってくる 
同期入社のよしみで 僕らは 互いの お悩み相談所になっていた

そんな いい関係だったのに・・・ 僕は 勘違いしてしまった
石橋を叩いても渡らないはずの僕が 
月世界旅行よりも 大きな一歩を踏み出した
仕事帰り お悩み相談所となる 愛車シェベルで

「結婚しようか・・・」
想像していたよりも さらりと言えた・・・
一週間かけて 何度も練習した成果だった しかし・・・

「う~ん ごめんなさい・・・」

カーステレオからは 
Phil Collins - Groovy Kind Of Love「素晴らしい愛」が流れていた

一年後・・・
僕は別の女性からプロポーズを受けて 結婚した
二次会の席で 
遠く離れた席に座っていたカノジョが ニッコリ笑った
しかし 
それは ヒマワリのような 真夏の潮風を彷彿させた あの笑顔には程遠い 
道端にポロリと落ちた椿のような 笑顔だった

どうして そんな笑顔を向けるのさ・・・ ・・・ ・・・

15年後・・・
子供が生まれ 成長していく毎に 自分の存在が
希薄になっていることに 僕は気が付いた
生活費を抑えるため
シェベルはワンボックスカーに変わった
朝寝坊の息子を叱る 家内の声は 
夜遅くまで働いていた僕に 気を使うことのない大音量・・・
夕食の献立は 子供中心どころか
僕のおかずが 足りないことも しばしばあった

ここに 僕の居場所は あるのだろうか・・・
ふと あの日見た カノジョの椿のような笑顔が 脳裏をよぎった

ある朝 
いつものように 家族に気付かれることなく
そっと 家を出た僕は 会社とは正反対の電車に乗っていた 

海辺の 知らない街 知らない駅に 降り立った僕は
潮風に導かれるように 歩き始めた  と その時・・・
目の前の交差点を
ピンク色のランドセルを担いだ女の子が 横切った

信号は・・・Red!!

「あぶない!!」

とっさに僕の37兆個の細胞が反応し
学生時代を髣髴させる スタートダッシュが決まった!
女の子のランドセルをつかみ グイッと 歩道へ押し戻す!

Dosaaaaaa!
女の子は 歩道に瞬間移動して 座り込んだ

「よかった・・・」

入れ替わりに 車道に残された僕の目の前に・・・
 
あの懐かしい シェベルの ボンネットが迫っていた
ぐわりと 空間が軋む

「なんで たった一回で あきらめちゃったの・・・」

哀しい瞳をしたカノジョの声が 頭の中で木霊した・・・

Waaaaaaaaaaaaaaa!

僕が叫んだ場所は 真っ白な部屋のベッドの上だった
どうやら ここは 病院らしい
ゆっくり立ち上って 窓越しに外を見る・・・
そこに広がる街並みは どこか僕の記憶している日本とは 違って見えた

「僕は どうしたんだ・・・」
記憶の整理がつかない・・・ と そのとき 背後に気配を感じた

そこには 
巨大なテディベアを手にした 大男が立っていた

「巻き込んで悪いが この世界で生きてくれ・・・」

大男は それだけ言い残して 部屋を出て行った
機械のような動きで・・・

「この世界?」

不安を抱えて 病院を飛び出すと
駐車場には シェベルが停まっていた

「あらっ 元気そうじゃない!!」

僕は・・・ 
カノジョと再会した
正確に言えば 記憶の中のカノジョより 15歳 年を取っていたが

「仕事人間してるから ぶっ倒れるのよ!」
ヒマワリのような笑顔だった

「どうしてここに・・・」
ほんのり頬を赤くして カノジョは 言った

「病院から連絡があったのよ 携帯電話を見たんでしょう」
慌てて チェックした携帯の電話帳には 
見たことも 聴いたことも無い 宛先が連なっていた なにより・・・
家内や子供たちの番号が見当たらない

Dogaaaaaaaaaaaaaaann!!!!

病院が大きく揺れ  地下駐車場から バンが飛び出してきた
運転席には あの大男・・・
彼は 僕を見ると 真っ白な歯を むき出しにして ニコリと笑った

爆音を残し 消えていくバンを見ながら ふと 思った

ここは パラレルワールド?
昔 そんな映画を見た記憶があった 
いつしか
僕の腕にしがみついていたカノジョは 少し震えていた・・・

僕は 言った

「こんなときに 言うことじゃないけど・・・
 まだ チャンスがあるのなら 僕と結婚してほしい」

カノジョは 僕を見つめた そして・・・

「う~ん ごめんなさい」
やっぱり・・・ 
現実は 映画のようには いかない 
そう思ったとき カノジョが ポツリと付け加えた

「もう 貴方と結婚しているのだから」

シェベルのヘッドライトに 照らされながら 
僕は 初めてカノジョとキスをした・・・


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?