見出し画像

映画と車が紡ぐ世界chapter166

遥かなる山の呼び声:ニッサン・シルビアS13型 1992年式
A Distant Cry from Spring : Nissan Silvia S13 1992

真っ白な BUCO J-100(リアルマッコイズ)を着た青年は
子供のころから注文し続けてきた 街一番のホットココアを見つめている
いつものように 一番奥のカウンター席に座った青年は
今日 この街を出る・・・

カップから立ち上る湯気の中に 
20年間の思い出が ショートムービーとなって カプカプ浮かぶ

青年の家は アルプスの麓にある 小さな宿場街の旧家だった
しかし 先の大地震で 青年の家から発生した火が 
街に甚大な被害を及ぼした
住民たちは寛容を装ったが 彼らの居場所は もうここにななかった

青年の一家は とうに街を去り 彼だけが この街に残っていた
それは カノジョと アルプスと このホットココアがあったから

今も客席の いたるところから
突き刺さるような視線が 彼に放たれている
子供のころから青年を知る カウンター向こうのマスターでさえ 
この街で生きていくためには 彼らと同調しなければならなかった
同情するような瞳を向けながらも 
決して青年のそばに 近づくことはなかった

街の人々の記憶が 風化していくことを信じて 待ち続けた青年だったが 
最後の砦だったカノジョが 
自分と同じ視線を浴び始めていることに 気づいたとき
カノジョには内緒で 街を出ることを決めた・・・

湯気の中の ショートムービーが終わり 
冷めた ホットココアを一気に飲み干すと 席を立った

もう・・・ この街でやり残したことは無い・・・

Kalan Coron・・・
扉の カウベルが鳴った

!!

咄嗟に Cafeの重鎮である 
巨大なシマトネリコの木の陰の席に 青年は隠れた
真っ赤なニット帽のカノジョと その弟だった

ホットココアを注文した二人は
おもむろに 会話を始めた

「姉ちゃん 一人で大丈夫?」

「うん・・・」

「でも 全く知らない街で一人暮らしなんて・・・」

「大丈夫・・・この店のマスターが ホットココアのおいしい喫茶店が
 近くにある マンションを紹介してくれたの
 それに あなたも たまには 遊びに来てくれるでしょう・・・」

「もちろんさ・・・」
静かな店に 二人の会話が響き 青年の瞳に 涙が溜まった・・・

Kalan Coron・・・
再び 扉が開くと どやどやと 街の若者たちが入ってきた

「駐車場の めちゃくちゃ古い車 まだ走れるのかねぇ」

「ホント!!
 ザ・昭和! ダサいねぇ 時代は クロスオーバーSUVでしょ!」

S13をなじっている・・・
青年が父親から譲り受けた 真っ白なシルビア

Gatan!!
青年が 席を立った 刹那・・・

「S14・SR20DETへの換装! HPI 前置インタークーラーにクスコ 車高調!   
 柿本 オールステンマフラー!
 完全武装のS13シルビアは あなた達の 見た目キラキラ車とは
 わけが違う!」
勢いよく席を立って 叫んだのは カノジョだった

唖然とする 若者たち・・・
シンとする店の中 ゆっくりと席を立った青年は
カノジョの前を通るとき 
そっと 黄色いハンカチを手渡しながら 囁いた

 「いつかきっと・・・」

Gyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu

店の前の駐車場でS13が 
ものすごい勢いで後輪を 滑らせた モクモクと立ち上る煙・・・

Gyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu

再びスピンした後
S13は 遠くアルプスに向かって伸びる道へ消えた

店の窓から駐車場を見たカノジョは 優しく微笑んだ

そこには タイヤ痕で作られた 
見事なハートマークが 残されていた

♪ 倍賞千恵子/遥かなる山の呼び声 ♪




いいなと思ったら応援しよう!

hiropapaman
心(ハート)が 3℃ 上がってくれたら うれしいです! そんなとき 気が向きましたら お願いいたします 励みになります!