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映画と車が紡ぐ世界chapter100

ルパン三世 カリオストロの城 日産 エクストレイル 20GT T31型 2013年式
Lupin III The castle of cagliostro Nissan X-TRAIL 20GT T31 2013

エメラルドグリーンに輝く
松代焼のビアカップに キンキンに冷えたビールを注ぎながら 
台風の影響で 忙しなく流れる雲を見つめる
テーブルに置かれた 結婚式の招待状には
微かに 
水滴が落ちたような痕跡・・・

巡る雲の渦のいざいないを 素直に受けた僕は 
記憶の世界に 堕ちた

学生時代 
アニメ研究会に所属した僕には
いつも行動を共にする二人の友がいた
講義に出るのも 学食に行くのも 
トイレに行くのも・・・
タイミングは一緒だった

一人は 老舗温泉旅館の娘 
和装が似合うカノジョに プロポーズする男たちは 
サハラ砂漠の砂の粒ほどいたが 
カノジョが その申し出を受けることはなかった
決して 
イケメンとは言えない ごく普通の日本男児だった僕らが 
カノジョのお供でいられることについて 
カノジョは いつもこう言っていた

「私は不二子! Kenjiクンはルパン! 
 Takashiは次元なのよね! アナたちは私のしもべ
 つまり私たちはファミリーなの!」

不二子って・・・Bon Que Bonのスタイルが必須じゃないの!? 
その一言で カノジョの高速右フックを もらった回数は数えきれないが
僕ら三人は 確かにバラ色の学生生活を 送っていた

そんな僕が 唯一しっくりこなかったのは
次元と名づけられた 無口なTakashiの方が
カノジョと付き合っていたことだ

おいおい 不二子の恋人はルパンだろう 
そう つっこみたかったが
二人が
僕を含めて3人でいることを大切にしてくれたため
そんなことは どうでも良かった

ビアカップを片手に 
ガレージに移動する・・・
ブルーブラックのT31型 X-TRAIL
僕ら三人は いつもこいつで旅に出た 思い出の宝箱

そんな僕らの絆も 
卒業という呪文が僕らを現実に引きもどした

卒業後に両親の後を継ぐことになっていた 
不二子は 実家の旅館で 若女将となり
陶芸家の父を持つ次元は 
鄙びた山村に引きこもる父親の下で 修行を始めた

僕はといえば
何の志もなく 
内定をもらった会社に就職 平凡なサラリーマン生活を送っていた
生き甲斐はアニメを見ることと 車いじり 
学生時代の延長のような 遊び半分の温い世界を続けていた

Bohhhhhhhhhhhhhhhhhhn

おっと
遊び半分・・・というフレーズに 気を悪くしたのか・・・
SR20VETが吠えた
いや ほんとは お前もこの手紙に違和感を覚えたのだろう・・・

苦いビールを一気に飲み干した僕は 

「いっちょ やりますか!」
と 呟きながら ボンネットを叩いた 

Baaaaaaaaaaaaaaan! 
共鳴音が X-TRAILの思いを語っていた

結婚式の6時間前 
僕は カノジョの旅館の前にいた
招待状に書かれた カノジョの名前の横に 
次元・・・Takashiの名は存在していない
式場のキャッスルホテルへ向かうため 
自宅を出るカノジョは 旅館のスタッフに
ルーベンスの絵画のような微笑みを見せていた

「Takashiはどうしたんだい」
X-TRAILを降りた僕は カノジョの背後からボソリと言った

「Kenjiくん・・・」
突然 現れた僕に
プレゼントしてくれた笑顔は鉄仮面のようだった
間違いなく 
仮面の向こうにいるカノジョは大泣きして僕に助けを求めている

♪炎のたからもの BOBBY♪

僕の知らない間にも 
地球は自転し ボイジャーは太陽系を飛び出した
時の流れは カノジョから両親を奪い 
大切な旅館を傾かせた
カノジョは 
好きでもない相手と結婚することで 旅館を守ろうとしていた

「どうか・・・ 私に盗まれてやってください」
僕は言った

「えっ・・・」 

「君が期待していることを 想像できない男だと 思ったのかい・・・」
どんな大義があろうと
人生を棒に振るような生き方は 今の世の中に合わない
僕は X-TRAILに カノジョを押し込むと 山道を最短距離で進んだ
行き先は 
細く長くたなびく煙の源・・・”次元陶窯”

結婚式は花嫁の不在で流れた
怒ったのは花婿!
ここでは『伯爵』と呼ぼう
伯爵は カノジョの旅館を潰そうとしたが
サラリーマンで 車いじりが大好きな遊び人には 
ラリー仲間に国税専門官がいた 仮に『銭形』と呼ぼう

『伯爵』の会社は『銭形』率いる査察官によって 突然査察が行われた
もともと脱法行為を重ねていた『伯爵』は 
重い追徴課税を強いられ カノジョの前から姿を消した

学生時代・・・ルパンと言われた男には 麻雀仲間の銀行マンもいた
今まで 
全く相手にされなかった銀行から 
カノジョの旅館は 多額の融資を受けることになった
但し それには条件が一つ

”女将は松代焼の職人と夫婦になること”

台風一過
雲ひとつない
どこまでも高い 秋の空の下
X-TRAILの洗車を終えた僕は
松代焼に注いだビールを一気に飲み干した 

どこまでも 甘い ビールだった

※9月13日はクラリスと伯爵の結婚式をルパンが台無しにした日であります

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