映画と車が紡ぐ世界chapter155
エターナル・サンシャイン :三菱 FTO DE3A型 2000年式
Eternal Sunshine of the Spotless Mind:Mitsubishi FTO DE3A 2000
AM7:00
FTOの車中に
Queen の It's A Beautiful Dayが流れるとき
♪ Queen - It's A Beautiful Day ♪
ボブカットのカノジョが 僕の前を通過する
駐車場を越えた先には 地下鉄の駅があった
「トットちゃん おはよう!」
僕は カノジョの お決まりの姿を見たあと
ニコリと笑って V6のマイベックエンジンを点火する
カノジョの本名は知らない
ただ 駐車場の前を 半分ほど通過したあたりに
雨の日になると
30cmばかり 水溜りができる場所で
カノジョは 毎日 コツリとつまずいた
To To To・・・
その3歩ばかりの おっとっとから カノジョを トットちゃんと呼んだ
決して ヘアスタイルが玉ねぎ型ではない
転勤から2ヶ月たっても この街に なじめなかった 僕は
カノジョの そんな仕草に救われた
この地に来ての 初笑い・・・ そして・・・
いつしかそれは 自分でも知らないうちに 暖かい想いに変わっていった
しかし・・・
朝の わずか1分程度の すれ違いでは
次のステップに 進めるはずもない・・・
「いつかきっと カノジョに告白しよう・・・」
ハンドルを握りながら 僕は そう誓った
君の性格を考えると そんな日が来るとは思えない・・・
FTOは エンジン音で 独り言を呟いた
PM 8:00
いつものように Cafébar Casablancaの屋外テラスで
カノジョは ラム酒が入った cafeモカを注文していた
スマートフォンに入れた
お気に入りのナンバーを聞きながら
夜の街を眺めていると
カノジョの前を ブラウンのフランネルのスーツを着た
男性が 通り過ぎた
「ベスト君 今晩は・・・」
彼は 私のオフィスの向かいのビルで働いていた
デスクから よく見える場所で パソコンを見つめる彼は
夏の間も
ブルーのニットベストを着ていた
「今日も いい日だったね・・・」
カノジョは 毎晩この道を歩いて駐車場に向かう彼に
ポツリと挨拶するのを 日課にしていた
カラン・・・
Cafébar Casablanca
車通勤の僕には 縁のない場所だったが
今日は FTOが エンジントラブルになったため
初めて僕は 扉を開けた
シネマの雰囲気が 溢れた店内は 映画好きの僕にとって
いつか 入ってみたい場所だった
店の内装も素晴らしいが
席に座る客たちも
映画の主人公のように 夫々が ストーリーを漂わせている
しかし・・・
金曜日の夜・・・ 店の中では 既に様々なストーリーが展開していて
新参者を 受け入れる空気は・・・ 皆無だった
彼は 店の中を一回りした後
再び扉から出て行こうとした そのとき・・・
入口付近に座っていた 女性が立ち上がった
!!
本日のCafébar Casablanca 一番のストーリー
トットちゃんとベスト君の 出会い・・・
駐車場に停まるFTOは想った
やれやれ 君も何とか 一歩踏み出せたようだな
車と同じように
動き出せば トラブルの危険は増す でも それを恐れてはいけない
前に出るからこそ ステキな世界に 出逢えるのだから
記憶をなくしても 再び引き合う
ジョエル(Jim Carrey)とクレメンタイン(Kate Winslet)のように・・・
バッテリー切れを装ったFTOは
助手席が
近いうちに トットちゃんの定位置になることを 確信していた