【01】夜光漂流
派遣男子、ゲーム配信者に出会う
東京モノレールの左カーブを曲がっている時、生きてるって気持ちになる。
都営大江戸線大門駅から浜松町まで歩き、東京モノレールに乗り込む。時刻は今日も決まって22時30分、帰宅者と飲み帰りのビジネスパーソンを横目にガラガラの車両の一両めに洋高(ヒロタカ/23)は颯爽と乗り込んだ。
夜が明けるまでの時間の中で、この移動時間は自分だけの空間のような気がしてお気に入りだった。
建設中の何処かの企業ビルとタワマンの間を縫うように走り抜ける車両。
次第に、洋高はゲーム内で戦場へと送られるFPSプレイヤーの気分になっていた。
建設現場の重機の影や積まれた建設資材の影に敵影が見える。
「こちらヒロ、見えているぞ、降下する!」
洋高は東京モノレールのドアをパワーアームでこじ開けると、ジェットパックを起動させてバトルフィールドに飛び降りた。
相手チームの通信が乱れていることが、敵影の焦りから読み取れる。
「まずは一機、俺に続け!」
洋高が手近な敵を一体華麗に沈めると、モノレールから仲間が次々と降下してくる様子が視界の端に見えた。
「アルファ、確保する!」
ふいに、東京モノレールの座席に座っている洋高の視界にタワマンの一室が飛び込んで来た。
若い男性がヘッドフォンを装着し、高級なゲーミングチェアに座っている。過ぎ去る一瞬でチェアとヘッドフォンのメーカーが分かった。キーボードの操作の仕方で、ゲームプレイをしているようだった。
男性は楽しそうにマイクに向かって何かを話している。
膝の上に抱えたバックパックをギュッと抱きしめた。
夜食用のおにぎりを詰めたジップロックが弾力を持って押し返してくる。
モノレールはゆっくりと右カーブを描いて直線コースを進んでいった。
流通センター駅で下車すると、格安自販機で600mlの麦茶を2本買い、歩いて海岸沿いの倉庫へ向かった。
途中の橋を渡ると頭上のすぐ上を航空機が滑る降りてくる。
都心で見上げるそれとは全く違った迫力の航空機は、唸りを上げて洋高を煽って去っていった。
轟音と夜空が心地よさと上空の湿度を連れて来た。今夜も暑くなりそうだと覚悟を決める。
倉庫に着くと机の上のプリントにどの派遣会社から来たかを記載し、安全靴とヘルメットを受け取り待機場所へ向かった。
ロッカーにバックパックと靴を押し込み、軍手だけを取り出した。
時刻は23時を少し回った頃。23時半になれば決まって隣のパーテーションの奥から社員がやってきて倉庫作業の振替配置を行う。
さっきまでのパワーアーマーの代わりに、ヘルメットと軍手、安全靴を身にまとい、洋高は倉庫内へ向かった。
次の楽しみは休憩時間のおにぎりだった。
少し型崩れしているそいつらは、ロッカーの中で洋高を待っていた。
>続く