【02】夜光漂流
デジタル空間のもう一人の自分
夜通しの倉庫作業を終え施設を出ると、強い日差しに視界がぼやけた。
一緒に出てきたおっちゃんが言う
「6月とは思えない日差しだなあ、お疲れさん!」
洋高は東京モノレールに乗り込み浜松町駅へ帰宅の途についた。
朝は一転、羽田から東京へ向かう人たちで座ることもできない。
一晩の倉庫整理で体臭を放つ洋高を避ける観光客と遭遇する確率もそこそこあった。そんな時、洋高はただ浜松町駅に着くことをじっと待っていた。
自宅ワンルームに着くと、おにぎりの入っていたジップロックを洗い、服を洗濯機に放り込み、軍手をタライの業務用洗剤でつけ置きすると、熱いシャワーで一晩の汗と匂いを流した。
元の自分に戻る儀式のように、それらの順序や手順は細かく決まってすらいた。
洗濯が終わると衣服を浴室乾燥機にかけ、脱水した軍手を追いかけで干した。
起きた時に食べる用として、レトルト白米とカレーのパウチを選んで流しの上に置く。珍しくその日はスープも足すことにした。
もう身体はクタクタだったが、どこが嬉しそうな自分を感じている洋高。
ベッドに潜り込むと身体中をくねらせて各所を伸ばしてゆく。
「むぎゅうー」という奇声を発しながら眠りに落ちるポジションへ身体を持っていった。
洋高は深い睡魔を覚えた。
眠りへのその途中で、出勤時に目に入ってきたあのタワマンのゲーム配信者のことを思い出しながら、自作のゲームングPCとアイリスオーヤマで買った自慢のゲーミングデスクを眺めていた。
眠りに入るまでの儀式と同じように、アラームで目を覚ますと儀式的な作業が洋高を待っていた。
これも全ては1日5時間のゲームプレイと動画編集の時間を確保するため。洋高はベットから飛び起きた。
時計は14時を少し過ぎたところだった。
冷蔵庫から水出ししておいたプーアル茶を取り出すと、2杯飲んだ。
ねまきのTシャツを脱ぎ新しいシャツに着替えると、ズボンはそのままにゲーミングデスクへ跳ねるように座る洋高、スリープ状態を解除すると洋高にはお馴染みのデスクトップ画面が眼前に拡がった。
録画用OBSを起動し、キャプチャーボードの接続を確認すると、FPSゲームを立ち上げる洋高。
目のところに穴を開けただけの紙袋を被り、配信画面に自身を映すと録画ボタンと配信ボタンを押し、洋高はようやく真の居場所へと降り立った。
>続く