ポルノファンの僕が25周年にしてはじめてライブにいった話。
まず、僕はポルノグラフィティのファンではなかったのかもしれない。
初めて聞いたのは小学生か中学生の頃で、確か姉がTSUTAYAかどっかで借りてきたCDの1枚がポルノグラフィティのアルバム「雲をも掴む民」だった。
当時の僕は「雲をも掴む民」がどんな民なのか、そして「雲をも」というからには他にも何か既にオッパイ的なモノを掴んでいるかもという可能性に、どこか下ネタ的なトキメキを感じていた気がする。
「そろそろアンタもポルノグラフィティぐらい聞いとかないと」
突如として姉の放った一言は、その後の僕の価値観、もっと言えば人生観を根底から覆したと言っても過言ではない。
「いやそろそろ聞こうと思ってたしポルノグラフティーだっけ?それ。うん。丁度。知ってる知ってる。普通でしょ時期的には。何が?意味わかんないんだけどお前。は?」
と、小学生の僕は裸足で喚き散らしながら「ポルノグラフィティ」という未知の音源に対する恐怖と戦っていたと思う。
「そろそろポルノグラフィティぐらい聞かないと」という肉親からの圧迫面接。そろそろというのは具体的に何学期までなのかという焦燥感。通過儀礼的なモノなのか。「ポルノグラフィティぐらい」というからには更に何らかのグラフィティが段階的に控えている可能性が高かった。
姉は、カセットテープにポルノグラフィティを録音してくれた。
それからの僕は、「ポルノグラフィティ」をせっせと聞いた。なにせ「そろそろポルノグラフィティぐらい聞いとかないと」だ。
聞かなかったらどうなるか、想像する事すら恐怖だった。恐らく担任の先生には呼び出されるだろう。親もアレかな、謝ったりするのかな。聞いとかないとどうなるんだ、とにかく聞いとかないと、ポルノグラフィティぐらい。
当時の僕にはその答えが全く分からなかったが、大人になった今でも全く分からない。意図が全く分からない。なんの脈絡もなければ利害関係も不明な姉の発言には狂気じみた何かを感じずにはいられない。彼女もまた思春期だったのかもしれないし、妖怪の類だったのかもしれない。
そんな過程でポルノグラフィティを聞き始めたが、気づけば普通にファンとして青春時代から今に至るまでひたすらポルノグラフィティを聞いている。
ただ、ライブには行ったことがなかった。なぜか分からないけどライブという発想がなかったんだよねムーミン、、
あるキッカケで、ライブに応募してみようということになり見事当選。
たまたま25周年のライブに行けることになった。え?ポルノグラフィティって本当にいるの??
いた。
お席の都合上、うっすらお豆サイズのポルノグラフィティが、確かにいた。歌ってる!ポルノグラフィティが歌ってる!俺の中のサツキとメイが「本当にいたんだ!」と裸足で喚き散らしているのを感じた。
隣にいる女性に「本当にポルノいましたね!」と話しかけると「そうだな」と応えた。妻である。
彼女もまた、ポルノグラフィティの洗礼を受けた1人であり、同志であり、先輩であり上司であり君主であり絶対的権力者である。
演奏が始まり、気づけば会場のベテランファンにつられて拳を突き上げて咆哮していた。狂喜する声が満ち溢れてた。聞き慣れた声のような、初めて聞いた声のような、不思議な感動を覚えた。
ふと、権力者とは反対側の隣の席に目を向けると、すすり泣きながら頷いてるファンがいた。
うんうん、わかるよ。感動するよね。同志だよね。クロールしちゃうよね。わかるよ。
彼は、ノってくるとクロールしてしまうタイプだった。水泳のクロール。しかも距離感が近いタイプの人だった。
ひらりひらりと舞い遊ぶように姿見せたアゲハ蝶〜♪
目の端で、ずっとクロールマンの手がチラリチラリと映っている。しかも絶妙にズレて。
そして徐々に近づいてくる。
やがて俺とポルノグラフィティの前に完全に立ち塞がり、皆既日食となった。こんなことってありますか?
さすがに席に戻ってもらい、またポルノグラフィティを鑑賞する。
また泣く、泣いてクロールをする。そして近づいてくる。この繰り返しだった。
目と耳ではポルノグラフィティのライブを見ていたが、意識は完全にクロール君に行ってしまっていた。僕は何をしてるんだろう。そして彼は何をしてるんだろう。でも、彼はポルノグラフィティのライブを楽しんでるだけで、おかしいのは僕の方かもしれない。また泣いてる。邪魔しちゃダメだ、この人はただのポルノグラフィティのファンだ。じゃあ僕は?
結果として、クロール君に対してやや背を向けて立ち、横目でポルノグラフィティを見る作戦により初のポルノライブはとても充実した体験となった。
25周年を迎えたポルノグラフィティチーム。
問いかけてきたのは「#あなたにとってポルノグラフィティとは?」である。
となりのクロール君と在りし日の姉のおかげで、かなりの難問となっている。
この答えは、30周年のライブまでに考えておこうと思う。
そして、30周年ライブでまたクロール君と隣の席になれたら、あの時分からなかった答えを拳にこめて渾身の力でぶん殴りたいと思います。
おわり
嘘です。