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桜の宮駅前ローソン
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一日に三本映画を観たりなんかすると入力が多くなって一旦頭が雲みたいになる。晴れるまでは大体三、四日? 三、四日の間には酒を呑んだり本を読んだりするけど頭はずっと雲、読んでいるうちに入らない。朝起きて、できれば夢のなかから、寝るまで、全問正解するような一日があれば良いと阿呆みたいに思うけれどそんな一日は今までに一回もない、それは悲しいことでない。自分の、しゃべり言葉の語尾がずっと決まらないような感じはほんのときどき気持ちがいい。
想像力をどこかに落としてしまった。と思ったのは、喫茶わらくで一緒にコーヒーを飲んでいる老夫婦がしていた「たまにはこうして外に出て、コーヒーを飲んだりすると気持ちが明るくなるだろう。ついでに散髪もいけばいい」と言う会話を聞いたこと、細い川の橋の上で、また違う老夫婦の奥さんのカバンにヘルプマークが付いていて、ズボンはすぐ見てわかるほどオムツで膨らんでいたこと。旦那さんは両腕で奥さんを支えて歩いていた。これまで風景として通り過ぎていたことをどうする。自分には自分のやるべきことをと割り切る、悲しい気持ちを持たないで、目の前のなにかに全力で対応できる力を溜める、不得意なことは人に頼む。彼が決めたそんなような決まり事は一息に吹き飛びそうなときがある。『人間仮免中』を読んでから夫婦や老夫婦の今見えてる、その奥の暮らしは想像以上に過酷なものかもしれない、そのぶんとても幸せなものかもしれないと思うようになった、それから人と関わるということの難しさと、距離の大事さを改めて感じる、ひとまず彼は相手がどう思うかということを優先順位の一位から二位に下げて、(おせっかいや必要でないことかもしれないけれど)自分がこうしたいと思うことをやる、ということを一位に無理やり上げてみようと思った。それはでも突き詰めたら自分の保身になるのよねえ? 声? すぐに消す。
タクシーの車内でできることは? 淀川向こうから北野病院に送った老年の女性は、五歳の孫には障害があって施設で暮らしていると言っていた。残念そうだったかもしれない。彼はたまたま大江健三郎の本を持っていたから、この人の息子にも障害があって光くんと言って、ピアノを弾いたり演奏会をしたりしているそうです、素晴らしい感性がやっぱりあるのでしょうか、この本を読んで知ったのですけど、と言った。女性は着いたとき、素晴らしい感性はね、ある。孫は素晴らしい笑顔で笑うし、たくさんのものをくれる。と言って降りていった。
タクシーの車内でできることは? 想像力を悲しい方向の逆にできるだけ膨らませておく。時間が過ぎて、なんとなく出来事が落ち着いてしまう前に、自分が本当に思っていることをひと言でも相手に伝える。そんなところか、そんなふうかなあ、彼がそう思って運転していると、なにも迷わず、お互いに自立しているような姿勢で歩いている夫婦が見えた。それから彼はそれを、そう見えているだけかもしれない、と思い直すことにした。桜宮の駅前のローソンだった。そこから、ここからかもしれないと思った。