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警備員は街の指揮者


 至る所で道路工事。道路工事は国がやってるんですか? その費用は僕たちが払ってるんですか? というような話はもう全然車内で聞かない。もう皆飽きていて、今は外国人が多いねえ、心斎橋筋では日本語を聞くことのほうが少ないですよ、と言う話がほとんど、それに飽きたら次はどんな話をしよう、どんな話が起こってくるやろう。
 勝手に制約を設ける。ひとつのコンビニでは三点以上買わない。煙草は車の外で吸う。ひらがな表記の「はい!」じゃなくて、カタカナ表記の「ハイ!」を言うようにする。自分だけがしんどいなど思わない(自分だけが大丈夫など思わない)。センターラインが破線になっているところではスピードに合わせてあむあむあむ、声を出すようにする。守れたら丸、守らなかったらバツをつけて、勤務をどんどん始まりから終わりに持っていく。あとは眠たい時には寝るなど。
 だから至る所で道路工事がやっていて、車線規制があって、だいたい二人の警備員が赤い棒か赤白の旗を持って居る。それで歩行者とか、車をうまいこと誘導してる。それをみて、それに従って止まったり動いたりする、そこでの長は警備員です(それは楽なこと)。
 なんばパークスとなんばシティの高架の間の道路は左折できるのは関係車両のみで、一般車両は直進しかできない、それを振り分けている警備員が居る。関係車両がくると直立になって、棒を持った右腕を大きく左に回転させて、空いている左手も添えて指を指す、その動作は「ハイドウゾ!」みたい。一般車両が通るときには大きく足を広げて踏ん張って、左膝に左手を置き、右腿に右肘を置いて手首で棒をひょいひょいとする。それは「コチラハイケマセンヨ」みたいで、道路は感情が歯が立たないような所があるから、その道路のうえで感情だけが浮き上がってくる感じがしてよくそこを通るようになってしまう、最高だと思う。警備員にはときどき棒を蠅叩きみたいに振るものとか、もう制服を脱ぎたいみたいに振るものとかがいるけれど、それには歩行者も車も全然指揮されてない。
 今度見た警備員は軍手を両手にはめて、各車の速度に合わせて滑らかに、棒と軍手のはまった左腕を波打つように振っていた、送り出すよう、送り出されるみたいだった、その頭上では電気工事が電線と電信柱に登っていて昼時で、カンカン照りの中サラリーマンはわらわらと弁当を買いに出ているところで、車も人も波みたいになってその警備員が動かしているみたいに思ってしまった、思ったときがあった。錯覚でも本当でもないけれど、警備員は街の指揮者だと思う。いい街はいい警備員が流れを作っている。

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