さよならサワークリーム味
口に入れ、噛んだ瞬間にじゅわりと広がる酸味と旨味。
私は貴方のその味をずっと忘れない。
「期間限定」なんて、言ってほしくなかった。
これからも貴方の味を味わっていたかったよ。
今回のエッセイでは貴方との別れとその葛藤を記そうと思う。
◇
え~っと。(笑)(笑)(笑)かっこわらかっこわらかっこわら。
なんでしょうこの冒頭は。これはまさに「かっこわら」である。
貴方とは、「ポテトデラックス サワークリーム味」のことである(長いので、これから冒頭に合わせて「貴方」と呼ぶことにする)。
ポテトデラックスとはカルビーのお菓子であり、「ポテトデラックスは通常のポテトチップスの3倍厚!(※) カリッザクッホクホク食感で食べ応え抜群のポテトチップスです。※通常のポテトチップスの3倍の厚さ。スライス厚比。」というキャッチコピーを挙げている。 定番のフレーバーは「マイルドソルト味」と「ブラックペッパー味」であり、2022年7月には期間限定フレーバーとして「サワークリー厶味」が発売された。
私はこの「サワークリーム味」の虜になってしまったのだ。期間限定なのは分かっていた上で好きになってしまった。いつ店頭からいなくなっていまうかわからない貴方を好きになってしまった(おいおい、冒頭のテンションに戻ってきているぞ)。
「ポテトデラックス サワークリーム味」との出会いは私が高校三年生のときだった。初めに食べたのはマイルドソルト味で、「なんだこのお菓子は!おいしい!」とポテトデラックスに目覚めた後、期間限定の貴方を見つけ、初恋のマイルドソルト味をさしおいて貴方に乗り移った。そこから私は学校帰り、特に疲れた時にスーパーに寄って、貴方を買って帰るようになった。
疲れたときにはいつも貴方がそばにいてくれた。
疲れ切った心身を癒してくれた。
この生活は大学に入学しても続いた。
期間限定にしては長く店頭に並んでいるから、貴方が永遠に居てくれるのではないかと錯覚したこともあった。
それなのに……。
ある日、とうとう近所のスーパーから貴方が消えてしまった。
私は悲しみに暮れた(作者は執筆しながらこのテンションに耐え切れなくなって思わずにやにやしている
)。
そして6月27日、貴方がいた場所に見慣れない赤いパッケージが並んでいた。「誰よ! その女!」とパッケージをよく見るとそこには「期間限定」の文字と一緒に「ホットチリ味」と書かれていた。本当に、「誰よその女」である。誰よその女と思いつつ、私はある期待を抱いていた。
この味が貴方を超す味である可能性はゼロではない。
その期待を抱いて私はホットチリ味を購入し、食べた。
違う!!!!!!!!
おいしいけど、違う!!!!!!!!!
とても残念だった。
貴方の代わりにはならなかった。
私は貴方の代わりとなるお菓子を探し始めた。「サワークリームオニオン味」と書かれたお菓子を見つけるたびに買った。サワークリームオニオン味のカップ麺を見つけて購入したこともあった。食べたことのなかったポテトデラックスのブラックペッパー味も食べてみた。
しかし、やはり貴方の代わりにはならなかった。
私は気付いてしまった。
貴方の代わりはいないということに。
ポテトデラックスでないサワークリームオニオン味のお菓子でも、他のポテトデラックスでも、ダメなのだ。
昨日、私は別のスーパーに行き、奇跡的に売れ残っていた貴方の姿を見つけた。貴方は三袋しかなかった。その隣には大量のホットチリ味が置かれていた。
三袋買おうか迷ったが、私は貴方一袋と初恋の味であるマイルドソルト味一袋を購入した。
今日で本当に最後だと思った。
貴方との別れの時が来たのだと思った。
初めにマイルドソルト味を口に入れた。
とても美味しかった。
代わりになれるかもしれないと思った。
サワークリームの味はしなくても貴方の面影がそこにはあった。
貴方の「サワークリーム」の部分にばかり注目していたのだけど、貴方の素材の部分も愛していたことが分かった。
貴方の酸味が少し恋しかったけれど。
次の日、最後の貴方を食べた。
一枚一枚大事に口に含んだ。
じゅわりと酸味と旨味が広がった。
私は貴方のその味をずっと忘れない。
さよならサワークリーム味。