水処理と技術営業/巨大プロジェクト編
水処理の分野の営業さんは、いわゆる技術営業というものに該当することになります。こちらの記事でご紹介した分野毎に、営業の仕方や仕事の仕方がどう違うのか?を経験と知見を基に解説してみました。
1.官公庁向け巨大水処理プラント納入
この分野は自らの経験でないのですが、見知った限りで記述します。官公庁向けというと、浄水場や下水処理場などが該当していきます。発電所も水処理が必要でよく該当し、発電タービンを回すための水や排水処理などがあります。仕事の規模も非常に大きい傾向があります。
公平を保つために、「入札」という形でプロジェクトの引き合いが行われます。これがこの分野の独特な部分で、これにより仕事のやり方が決まっているといっても過言でないでしょう。入札を勝ち残るためには、いかに仕様書の内容を理解する情報を持てるかが営業活動の一つになります。この分野の営業の話は、良く紙面を賑わせる内容に発展してしまう可能性もあるので、見知ったレベルではこのあたりまでにしておきます。
ただ、この「仕様」が非常に曲者です。公正公平、技術とコストの信頼安全にさらに公共性をもった仕様にすべき、と基本的には正論を優先します。仕様が重くなります。一般的に、重ねた正論を検証して最適化する議論は難しいものです。結果としては、特殊な仕様が誕生しやすくなります。例えばブロワなどの機器に対しても、普通に購入しても能力としては変わらないのに、「公共向け仕様」なんてものが存在し、より安全性を考慮したオプションや、ご指定の検査などで金額が通常の倍になるなんてこともしばしば。また、事実上、ある特定のメーカしか仕様に対応できなかったりする場合もあります。設計関連の技術的な部分もしかり。一方、こういったところに、いかに公共性を保ちながら食い込んでいく営業をするのか、が重要かもしれませんね。
つまりは、営業、設計、調節、施工といった場面で、特殊とも言える仕様を如何に理解しているかが、仕事をこなしていく中で非常に重要になってきます。裏を返せば、仕様を熟知さえしていれば非常に重宝されるため、コンサルタントが活躍しやすい分野でもあります。
2.民間向け巨大水処理プラント納入
半導体の水処理が代表的でしょう。とにかく規模が大きい一方、需要に合わせて工場建設をするために1年程度の短期間で目的のレベルまで仕上げていくことが要求されます。「仕様」の要求はもちろんありますが、途中での変更・拡張は当たり前。基本的に一番大事なことは「"タイムリーに"要求する水質と水量を安定的に出せること」。中身は任せるよ、というスタンスで、コストと要求に見合った業者が選定されていきます。
こういった巨大水処理プラントの分野は限られています。営業は、その限られた分野の知識を深めて軸にしながら、持っている水処理技術知識を使って、お客様の要望を聞きながら営業をしていきます。ヒアリングしたお客様の要望を、水処理設備の計画ができる人が資料化し、営業と一緒に技術営業チームとして顧客へ営業訪問していきます。
受注後の仕事の進め方もハード。とにかく、一人では絶対にこなすことは不可能な物量です。詳細設計をするチーム、調達するチーム、施工するチーム、試運転をするチーム。とにかく仕事をプロジェクト内で役割・分野分割し、各専門のチーム一丸で仕事をしていきます。まさに民間プロジェクトの塊のような分野です。
3.石油化学向け水処理プラント納入
原油を精製したり、石油化学関連の製品をつくったりするプラントが対象です。非常に対象が限られている分野に向かって技術営業チームを作って営業していくスタイルは、大型の民間水処理プラントとして大きく変わることはありません。受注後のスタイルも大きく変わらないでしょう。
この分野で大変なのは「仕様」です。官公庁向けと同じ項目ですが、ポイントが異なります。この分野は、水よりも危険な流体を扱うプロ集団です。彼らは彼らで「標準仕様」を持ち、水の扱いについても大切なユーティリティとしての仕様を保有しています。ただ、この水に対しての標準仕様は、石油化学製造プラント内で守るべき仕様であり、その製造プラント外の水処理プラントに対しては過剰である場合がほとんどなのです。この点はこの分野の水処理ご担当の方も良くご承知で、引き合い時には「仕様のすり合わせ」がよく行われます。
この仕様のすり合わせがポイントです。彼らも標準仕様など深く検討し、危険な流体を扱うことを前提とした「当たり前」が存在します。水処理会社も同様に「当たり前」が存在します。すると、標準仕様文書だけですり合わせをしていくと、そこに表現できない「当たり前」の違いから、「言った言わない、常識非常識」などの文言が飛び交う大きなトラブルになる可能性が高いのです。コップを置いた時に下にコースターを敷くなんて当たり前だろ?というレベルです。相手の当たり前と自分の当たり前は違う、ということを意識しながら仕事を進めていくことが重要です。
4.医製薬向け水処理プラント納入
ヒトの体の中に入っていくお薬を作成する際の水を供給するプラントが対象です。非常に限定された分野です。いわゆる「純水」を供給していくのですが、水処理プラント技術として特徴的なことはありません。しかしながら、ヒトへの安全性を考慮し、十分に安全性が担保されるよう、ある特定のルールをベースにすべての設計・製造・検査をすることが要求されます。これをGMP(Good Manufacturing Practice)と呼んでいます。営業にあたっては、このGMPをどれだけよく理解してお客様と商談できるのか、が信頼獲得へ非常に重要になります。
このGMPが曲者です。内容は、正論の塊。万人に影響を与えないよう、捉え方によって考え方が変わりそうな部分については「~を推奨する」なんていう表現を使っているものですから、仕様という拠り所に「解釈の問題」が存在します。このことから業界経験が非常に重要で新参者が参入しずらく、逆にコンサルタントが活躍しやすい場になっています。そこにさらに「しっかりと守られているのか」を検査する査察官が定期的に審査に訪れます。その査察官によっても解釈の違いから指摘を受けることがあります。この分野の水処理は、技術は一般的なもので十分なので、GMPの検査への知見と理解、「バリデーション文書」が重要なのです。でも、これをやっているからこそ、お薬や注射液を安心して体に入れられるのです。特定の法規を十分理解して上で、技術提案と設計を実行し、国から「可」の判定をもらう検査結果を提出できるのか、ということが仕事で求められます。
以上、分野が限定的で比較的大きいプロジェクトがあるものについて、私の知見と経験を基に記述しました。これらの分野は、特徴的であるからこそ参入障壁が高く、利益率が高い傾向にあります。また、役割分担としてチームを編成して仕事を進めないとこなしきれない、という点も共通していますね。設計標準化、なんていうキーワードもでてくる分野たちです。
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