【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#013 『Polar Night』を生み出した磁場
【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
今回ご紹介するのは、『Polar Night』です。
『Polar Night』
2023 | 監督:磯谷渚
2022年に六本木 蔦屋書店の店頭で約5ヶ月に渡って行ったフェア“六本木ホラーショーケース”。
世界各地のエクストリームなホラー作品が惑星直列のようにいくつも重なって日本公開されたことに端を発した企画でした。
その中でも、一際強烈なビジュアルでインパクトを残したのが『ザ・ミソジニー』です。
主演とプロデューサーを兼任した河野知美さんが、ジャパニーズホラーを確立させた高橋洋監督と組んで送り出した作品で、不気味さと美しさとある種の可笑しさまで並び立たせています。
そのチームが新たに作り上げたのが『Polar Night』です。
磯谷渚監督にとっては今作が、長編映画デビュー作となります。
これまで短編や中編を監督し、国内外の映画祭で評価されてきました。
共同脚本として参加している高橋洋さんとは映画美学校で講師と生徒としての関わりがあり、まさに師弟のタッグが実ったと言えるかもしれません。
他の参加スタッフも映画美学校出身者が多く、磯谷監督の前作中編『天使の欲望』は映画美学校の助成金作品でした。
痴漢狩りに端を発した女子高生の暴走を東映任侠映画のようなテイストで描いた異色作ですが、主人公二人の関係性の複雑さは、『Polar Night』にも引き継がれています。
一言でシスターフッドと言ってしまうには、あまりにも奇怪で突拍子もない繋がりですが、間違いなく連帯の在り方の新たな側面を提示しています。
そしてそれは、現代的なイシューというだけでなく、監督個人の執着のような興味をフィルモグラフィを通して感じられます。
このモチーフを成立させている大きな要因としては、主演の河野知美さんの存在感が挙げられます。
血を吸いながら生きるという突飛な設定を持ちながら、人を惹きつける妖艶で普遍的な魅力を画面いっぱいに放っています。
役者としてだけでなく、プロデューサーとしてもこの作品に大きく携わり、作品内外で人を引き寄せる磁場の中心となっている気がします。
この先、高橋洋さんのセルフリメイク作品でも同じタッグを組む予定で、河野知美さんの活動が一つの“流れ”を形成しつつあると感じさせることでしょう。
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
『ザ・ミソジニー』
2022 | 監督:高橋洋
やはり『Polar Night』を理解する上で、前後での鑑賞をオススメするのは『ザ・ミソジニー』です。
この2作に関わっているスタッフが多く重なっているということもあり、作品のルックはとても近くなっています。
もちろんメジャー会社が送る超大作という訳ではないので、予算の制限があるのは外部からでも察しがつきます。
しかし、このチームの撮る画は独特の気品と豊かさが備わっており、近年の日本映画でも特異なポジションを確立しています。
女性の確執と連帯を描いている点も近く、だからこそ監督による違いを見出だせるかもしれません。