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【映画感想】6歩まえに、6歩後へ。 「サタンタンゴ」
10月22日 「サタンタンゴ」という映画を見た。
昼間の12時半に映画館に入る。終わったのは7時間18分後。
日頃の自分の睡眠時間よりも長い時間の映画。こんな体験は初めて。
アルゼンチン・タンゴのステップ(6歩前に、6歩後へ)に呼応した12章で
構成されている。最後と最初が円になるような、終わらないステップのような。
物語はあるような、ないような。
さびれた、壁とか壊れかけた家々と やたら雨ばかり降るあたり一面
泥だらけの村に、死んだはずの男が帰ってくる。男は昔なにかしでかして、でもまた帰ってくる。「寅さん」みたいなシチュエーションだけどそんな 困ってしまう面があるけど愛されるタイプでなく、
救世主か?詐欺師か?魔術師か?の 不穏そのものが形になったようなひと。
この男「イリュミアージュ」が案の定、村の人たちのなけなしのお金をまきあげ、「約束の地」に皆で行こうと村から離させ、警察の手先として たぶんスパイ活動?に全国に送り込むという........すこしも救いのない物語。
途中寝る......かなと 見る前は思ってた。7時間以上あるなら途中寝ても話に追いつけるだろうと。
結果、寝なかった。寝れなかった。
この映画の非現実的でシュールな世界は まったく他人事でなく、
いつのまにか 慣らさせてしまう今の私のような、
例えば 消費税が上がるのにも抵抗せず受けて入れてしまうような
朝の恐ろしく混んでいる電車に黙々と乗っている私のような
そんな身近な世界の気がした。逃げ出したくても延々と踊りつづけるような。
「イリュミアージュ」は実に魅力的。死んだような、活気のない人々に
ポジションを与える。そして彼もわかってる。人々は動けないのだと。
映像は本当にどのシーンも詩的でそれだけでも美しい。
泥がこんなに黙示録的な映像美になるんだな。
あからさまなメッセージではなく、映像をみるという
映画ならではの幸福な悪夢。あっという間。
音楽も映像にぴったり。音楽は「イリュミアージュ」役の役者さんが
担当したとか。(もともとビート・バンドで活躍してた)
それも考えると まさに ハーメルンの笛吹き男みたいで怖い。
彼の鳴らす音にみんなついて行ってしまう。観客も。わたしも。