与那国島、その人の名は知らず
年が明けて間もない頃、八重山諸島に行く予定だった。
しかし荒天の影響で飛行機は欠航。
日を改めたものの、また欠航。
そんなこんなで、二転三転してたどり着いた石垣島。
せっかく石垣島に行くのなら、国境の島まで足を延ばしたい。
こういう機会じゃないと、もう行く機会が巡って来ないかもしれないから。そこで、与那国島に日帰りで出かけた。
交通手段は飛行機。片道45分の旅だった。
私は車が運転できないので、現地について路線バスを利用しようかと考えた。
しかし、路線バスはあるものの飛行機が到着した時間にはない。
1時間半待てばあるようだ。
「さて、困ったもんだ」
と思いつつも情報収集しようとした。
あいにく空港の観光案内所は休み。
仕方がないのでレンタカー屋を覗いた。
店の前で、ちょうど車を借りる手続きを終えた女性とすれ違った。
なぜだろうか、とっさに彼女に声をかけた。
「すみません」
彼女は立ち止まってくれた。
「一緒に連れて行って欲しい」
頭よりも先に口が動いた。
彼女はきょとんとしていた。
正直、私もきょとんとしていた。
しかし、彼女は断ることなく、
「じゃあ、一緒に行きましょう」と答えてくれた。
そして車の停めてある駐車場に向かった。
こんな風にナンパをするのは、永年にわたり旅行を続けているが初体験。
しかも、コロナが世の中を席巻しているこの時期。
よくOKをしてくれたものだ。
そして私もよくもまあ声をかけたもんだ。
彼女とは往路も同じ飛行機で来たようで、帰りの飛行機も同じらしい。
車に乗って島を一周することになった。
まずはインスタ映えするスポットらしい、ダンヌ浜のトイレ。
続いて、日本最後の見える丘。
昼が近づいてきたので、彼女の友人おススメの漁協食堂で食事。
島内に3つある集落のひとつに立ち寄る。
昼食を終えてから食堂を後にして、日本最西端の碑のある丘に向かう。
「日本最西端」と聞くと、思えば遠くへ来たもんだなと思う。
この向こうに台湾が見えるはずだが、天気が芳しくないので見えなかった。あとから地元の人に尋ねると、めったに見えないらしい。
100キロ以上離れているからなあ。
最西端の碑を見てから、馬が道路を横切る西の牧場を通り過ぎ、海辺に点在する立神岩、軍艦岩などの奇岩を見ながら島をドライブ。
奇岩を見終えてから車を走らせると、またもや馬が続出。
今度は東の牧場に着いたようだ。
最初は珍しかった馬もだんだんと見慣れてきた。
途中、テレビドラマ「ドクターコトー診療所」のロケ地に立ち寄り、最後は島で一番大きな集落に立ち寄ってから空港に戻る。
彼女のおかげで、スムースに与那国島を観光で来た。
もしも歩いていたら、外周は15キロ程度だから1日あると歩けなくもない。
最初はそう思っていたのだけれど、実は島を取り巻く道路は上り下りが続く。
この道を歩いていたら試練だっただろうな。
本当のありがたかった。
空港に着いてお礼にガソリン代とレンタカー代を支払おうとするも、受け取ってもらえなかった。ようやく1000円だけ受け取ってくれた。
一日ともに行動したのだけれども実は彼女の名前は知らない。
SNSでつながったわけでもない。
だからもう会うこともない。
その人の名は知らず、されど思い出は心に残る。
そんな素敵な時間を過ごせた国境の島だった。