AirbnbやYelpから学ぶコミュニティ活性化のフレームワーク
「クリエイターエコノミー」や「コミュニティ」という言葉が最近のテック業界ではバズワード的に毎日のように取り上げられており、幸いにも私もコミュニティプロダクトに関わるきっかけがあったのですが、自分のコミュニティに関する知識がないことに気づき、色々勉強をしていました。そのまとめた知識をせっかくなので世に晒すことにしたのがこの記事です。
この記事は主に「The Business of Belonging: How to Make Community your Competitive Advantage」の著者であるDavid SpinksのSubstackで紹介された事例やフレームワークをまとめたものです。彼はCMXというコミュニティの専門家のためのコミュニティの共同設立者で、2014年に設立したこの会社は2019年にカンファレンス&イベントプラットフォームを提供するBevyに買収されています。その後、現在はAIコミュニティマネージャーを開発中とのことです。彼はこの10年間でコミュニティビジネスの成長に寄与したリーダーの一人とも言えるのではないでしょうか。
この記事はコミュニティやマーケットプレイスに関わる経営者やプロダクトマネージャー、コミュニティマネージャーなどにおすすめです。
先にまとめを書きますと、もしあなたがコミュニティを運営している場合、この記事で紹介するフレームワークたちを生かしてやるべきことは以下です。
初見の横文字が多いと思います。それぞれの言葉の意味や事例を見ていきましょう。
コミュニティコミットメントカーブ
コミュニティコミットメントカーブとは、新しいメンバーが最初にコミュニティに参加する瞬間から、彼らがリーダーやアンバサダーになるまでの過程を示すものです。それぞれの点についてはサービス毎に中身は変わるので、コミュニティを運営されている方はご自身の内容に合わせて描き直すとツールとして便利になるはずです。
考え方はシンプルで、時間とともにメンバーのコミットメントが高まると、コミュニティへの貢献も大きくなる、というものです。
このコミットメントの上げ方は段階を経ることが一般的に良いとされています。例えば、MeetupやAirbnbで実際にこのモデルを用いてコミュニティーを活性化させたDouglas Atkinによると、以下のような例があります。(括弧はDevid Spinksの補足)
立ち上げ時は「強い信者」からはじめる
しかし、このコミュニティコミットメントカーブに基づくアプローチのスタート地点は、コミュニティの成熟度によって変わってきます。
上述したようなMeetupやAirbnbのようなある程度成熟したコミュニティにおいては新規ユーザー獲得を一番左から非常にスムーズに右に移行していく体験がデザインがされており、それが最適解とも言えます。
一方で、新しくコミュニティを立ち上げる際には右上から始めることが良いとされています。
成熟したコミュニティの「今」ではなく「初期」に何をやっていたのかに注目してみましょう。
例えばアメリカ最大の口コミサービスであるYelpは、まだインターネットに口コミを書くことが一般的でなかったサービス初期に「テイストメーカー」、つまり新しいお店に率先して行ってその情報を発信する人をペルソナとして焦点を当て、その人の囲い込みから始めました。彼らの囲い込みにおいて、「なぜレストランの口コミを書く必要があるのか」といったような説得は必要ありません。むしろ彼らは情報発信の機会を欲しがっていたためです。
もっと泥臭い事例としてAirbnbは有名です。大きなカンファレンスがある際はホテルの確保が著しく困難になるサンフランシスコにおいて、Airbnbの設立者がカンファレンスに出席するデザイナー向けに自室をマットレスとともに貸し出したことがそのビジネスの始まりです。コミュニティを作ろうとする本人が最初の価値提供者になるのは大変良いアプローチです。
基本的にコミュニティは価値の提供者(クリエイター)と享受者(消費者)の集合によって成り立っています。そしてほとんどの場合、最初に必要なのは、既に意思のあるクリエイター(あるいは創業者自身)です。
コミュニティアクティベーションポイント(CAP)
クリエイターが消費者のための価値を生み出した瞬間、それがコミュニティアクティベーションポイント(CAP)です。コミュニティコミットメントカーブで最も重要な点とも言えます。
CAPは具体例を見るのがわかりやすいので、いくつか上げていきましょう。
そしてこれらには質が大変重要で、その質を維持向上する仕組みが併せて必要です。
特に新しく革新的なコミュニティを生み出そうとしている際には、この質の向上・維持のために小さくスタートすることが重要とされています。質が低い状態で拡大化し、その後質を高めようとすることは非常に困難なためです。以下はモデルとなるステップです。
エンジンを作る:最初の消費者を集めるために、数人の優れたクリエイターを集める。
エンジンを起動させる:クリエイターがCAPに絶えず到達し、価値が十分な品質を得るまで、グループは小さいまま集中力を保つ。
エンジンを回す:その小さなグループでコミュニティ・メンバー・フィット(次項参照)を持っている場合、より多くの消費者を募集し始める。より多くの消費者はより多くのクリエイターを引き寄せ、より多くのクリエイターはより多くの消費者を引き寄せる。
コミュニティメンバーフィット(CMF)の計測
コミュニティメンバーフィット(CMF)とは、コミュニティに参加する個々のメンバーが、そのコミュニティの目標、価値、文化、および期待に適合している程度を指します。これは、コミュニティが持続可能で健全な成長を達成するために重要な要素です。
スタートアップなどに詳しい方には馴染みのあるPMF(プロダクトマーケットフィット:製品が市場に受け入れられている状態)の言葉に近いように、CMFはPMFをよりコミュニティに最適化したと解釈することができます。
CMFが実現できている状態では以下のようなことが観測されます。
CMFはPMFと同様にバイナリーにきれいに分けられるものではなく、実現できている状態とそうでない状態の間に無限のグラデーションがあり、時間とともに絶えず変化していくものです。なので、継続的にモニタリングし、その指標の向上を目指すべきものです。
具体的な指標例をみていきましょう。
ネットプロモータースコア(NPS)
身近な人に推奨したいレベルを計測する手法です。非常に普及した評価指標なので、この記事での詳細の説明は省きます。
しかしコミュニティは必ずしもサイズが大きくなることを目指しているとは限りません。人に知られない場所であるからこそ価値がある場合もあるはずです。コミュニティの性質次第ではNPSではメンバー目線でのコミュニティの価値を測りづらい場合があることを理解しておきましょう。
コミュニティーメンバーフィットスコア(CMFS)
Sean Ellisが発案した、「このコミュニティ(プロダクト)がなくなるとどれだけ残念に思うか」を聞くアプローチです。PMFの先行指標として一定の知名度のある手法です。
日本語の記事では以下の「1-1: Sean Ellis test. このプロダクトが明日なくなったら困るか?」が参照になると思います。
英語ではSuperhumanというメールクライアントアプリケーションを開発しているスタートアップの設立者であるRaful Vohraの以下のCodaが読み物としてもツールとしても大変参考になります。
PMFでは「とても残念に思う」と回答する人の割合が40%となることが一つのベンチマークとされています。CMFSにおいても計測の事例と共有が増えてくれば、よりコミュニティの文脈に特化したベンチマークを把握できることが期待されます。ただ、ベンチマークの数字自体はなくとも、継続的に計測しながら向上を目指していくことが何より大事とされています。
この手法は指標として非常にシンプルで、様々なタイミング(例:会員登録から一定期間経過後や、イベントの直後など)で用いることができ、回答者にとっても難しい言葉の理解も必要ない点などから、コミュニティの評価として優れたものとされています。
もっと知りたい人のための記事
本稿ではまだ物足りなく足りなく、英語の原文を読みたい方々には、以下の記事をご参照ください。この長い本稿もいくつか端折ったところがあり、原文はより事例や説明に富んでいるので、一読の価値があります。
著者のDavidは現時点でも週に一回以上記事をあげているので、上記の記事に学びがあって、更に継続的に情報を得たい方にはニュースレターに登録することも有意義だと思います。
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