ミスドの思いド

今から30年以上前、私が小学生だった頃。

実家は小さな酒屋を営んでおり、休みは月に2回、隔週の日曜だけ。幼心によく働く両親だと思っていた。

そんな両親も一年で唯一、年始の三が日だけはきっちり休みをとっていた。とても貴重な連休、今の時代の感覚ならゆっくり休めばと思うかもしれないが、両親はきまって1泊旅行に連れ出してくれた。

いつも時間を惜しむように早朝出発だったが、当時はまだコンビニもなく、かといって母親も家で用意する気分でもなかったのだろう、駅前のミスドで朝食をとるのが例年の習わしだった。

お正月の高揚感だけでも小学生には十分すぎるお楽しみだったが、そこに一年に一度の家族旅行が始まる期待感が合わさり、さらにまだ薄暗いうちから発つ特別感が気持ちを押し上げ、どうしようもなく小躍りしながら入店していたと思う。

普段はテイクアウトだけれどこの日ばかりはイートイン。お店の奥にあるレンガ風のカウンターに黒い丸椅子、そこに腰掛ける大きな荷物を抱えた両親と、ドーナツ。 

私の旅行はこの景色から始まるのだ。


 今でもミスドが大好きで見かけるとつい入ってしまうのは、あの時の特別な景色を探しているのかもしれない。

これが私のミスドの思いド。

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