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地域とつながり、自分の人生を作る力を。孤独・孤立を解消するために
孤独や孤立が社会の課題となる中、福祉の枠にとらわれず人のつながりを育む取り組みに注目が集まっています。鳥取県内でも「福祉」の看板を掲げない活動者が、知らず知らずに孤独・孤立を解消する役割を担っています。
地域社会に生きる私たちの日常の行動が、周囲の人々にとって意外な支えになるかもしれません。
今回は、障がいのある方が生きがいを持って安心して暮らしていくための支援を行う、社会福祉法人養和会理事長の廣江 仁さんにインタビューします。「孤独や孤立の問題を解消するためには、地域とのつながりを持つことが必須」と語る廣江さんのお話から、みなさんも自分の中にある福祉を見つけ、地域へとひらいてみませんか?
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福祉サービスを離れても孤独・孤立にならない支援
―社会福祉法人養和会の活動や孤独・孤立に対しての取り組みを教えてください。
社会福祉法人養和会では、コミュニケーションに苦手意識がある、精神障害・発達障害・知的障害のある方などに、仕事や生活の場を提供するなどして、生きがいを持って安心して暮らしていただくためのサポートをしています。
障がいのある方は、孤独・孤立に陥るリスクがあります。我々が支援している間は少なくとも孤独・孤立は軽減されますが、関わりがなくなってしまうとたちまち孤独・孤立に陥ってしまう方たちも多いんです。
また、家族はいても孤立している方もおられます。家族との関係に悩む方には、家族と離れて自分の時間を過ごせ、職員と他愛ない話ができる場所として、ショートステイなどのサービスをご利用いただいています。
「障がい」という枠に入らなくても社会的に孤立している方、周りとあまり接触のない方もいらっしゃいます。米子市が取り組む「重層的支援事業」では、「アウトリーチ等を通じた継続的支援事業」の委託を受け、サポートを必要とする方のご自宅を訪問し、安否確認を含めてお話しを伺う活動を行っています。
「社会とつながる力」「自分の人生を作っていく力」を発揮してもらうためのお手伝いが我々の役割です。
―孤独・孤立解消につながったエピソードはありますか?
アウトリーチで訪問した方のお一人は、生活保護を受給できるように行政とつなぐことや、さまざまな支援を通じて、生活を少しずつ変化させていきました。仕事に就き、相談できる人もでき、孤独・孤立という状態から抜け出せたんです。
養和会には一人暮らしの訓練をする入所施設があるのですが、そこで訓練しながら、日中は就労継続支援や自立訓練を行う「あんず・あぷりこ」で働く方もいます。アパートを探して一人暮らしができるようになり、さらに一般企業に就職とステップアップされ、最終的には福祉サービスを一切使わなくなった方が何人もいらっしゃいます。
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養和会のような公的なサービスしかつながる先がない人は、いつでも孤独・孤立状態になる可能性があります。ですので、身近な社会とつながれるような働きかけをしています。例えば、「米子がいな祭り」を見に行ったり、イベントに参加したり、習い事に通うことでも、人や社会とのつながりを感じられるはずです。
福祉の限界は、地域とのつながりの力で乗り越える
―養和会は、地域とどのようなつながりがありますか?
養和会グループの理念や事業計画、ビジョンには「地域の幸せ」「地域とともに」と掲げています。私自身も「地域のためにできることは何か」と思案しています。利用者さんのために仕事をしながら、ずっと地域を大事にしてきました。
自治会活動も、子どもたちの下校の見守りパトロールもします。草刈り、ボランティア活動、お祭りなども行ってきました。近隣の社会福祉法人と連携して「なんでも相談ダイヤル」を開設し、近所の人や家族には相談しづらい悩みに電話で対応する活動もしています。
このような関係をしっかり築くことが、地域のため、養和会のため、利用者さんのためにもなるはずです。
―地域とのつながりを築くために何が必要でしょうか?
我々だけで福祉を支えるのは限界があるので、「地域のみなさんのお力を貸してください」というスタンスが大事だと思っています。
一方、福祉側が孤独・孤立を作り出している面もあります。福祉サービスに任せてしまうことで地域内での見守りをしなくなり、地域の力が失われてしまうんです。福祉事業者が福祉のことをやるのは当然ですが、地域で支え合うことが地域共生社会であり、孤独・孤立の解消にもなると信じています。
そのために、いつの間にか人を巻き込む仕掛けをつくりたいと考えています。その一つが「いき〇(まる)研究会」です。ひきこもり状態にある方や生きづらさを抱えた人たちが、地域社会で安心して暮らしていくために何ができるのかを考え、福祉、民間、自治体、大学、一市民……さまざまな業種職種の横断チームで実践しています。人と人が自然とつながれる演出や輪を広げる手伝いができればと思います。
そして、子どもたちにもアプローチしたいですね。事業のスタートから関わっている境港の「いのちとこころのプロジェクト」では、子どもの実態を継続的に把握するため毎年アンケートをとっています。相談できる人についての設問に「近所の人に相談できる 」という回答が一定数あり、嬉しいですね。
地域の人には、登校時の見守りで声をかけたり相談にのったりしてもらいます。「ちょっとしたおせっかい」が地域共生社会には必要なこと。地域の大人がちゃんと子どもを見ていれば、子どもたちにも、周囲の人が見守ってくれていると伝わります。そういう関係づくりをしていきたいです。
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普段の生活を少しだけ変えてみる
―廣江さん自身が孤独・孤立を感じることはありますか?
法人の理事長職に就いていると自分一人でやらないといけないこともあるので、そんなときは孤独を感じます。相手にしてもらえないとか、理解されないこともあります。突拍子もないことを言ったりやったりするからかもしれないですけどね。
私自身は理事長ではありますが、役職には一切興味がないんですよ。「鳥取県西部障害者自立支援協議会」の会長も務めていますが、このポジションに就いたほうが自分のやりたいことを達成できるし、組織にとっていいと思えたから引き受けたわけです。
社会を変え、改善していきたいんです。現状ではうまくいっていないところをより良くするには、それ相応のポジションや孤独になることも必要でしょう。
―活動を続ける糧になっていることは何ですか?
いろいろな失敗もしてきたので、反省も含めて自分の経験やスキルを社会に還元するにはどうすればいいか、どうすれば自分を活かせるかについて、よく考えています。
平成元年にソーシャルワーカーとして仕事を始めましたが、国家資格がない時代だったので、全国組織の勉強会に参加してソーシャルワーカーの役割について先輩たちから教わりました。
今では社会福祉士や精神保健福祉士といった国家資格ができ、全国のどこの地域でも一定の基準や同様の考え方に基づいて、支援を行っています。私は精神保健福祉士の国家資格を持っていますが、資格ができる前も今も、大切にしなければいけないことは変わりません。
「代わりにやってあげよう」ではなく、自己決定を大切に、どう解決できるかを一緒に考えます。人生の主役は、その人自身です。失敗しないようにと最初から手を差し伸べるのではなく、失敗するかもしれないけど自分でやってみる。失敗しても、その中から自分で学ぶ。「自分の足で立っていけるように」と意識して関わっています。
正直、福祉サービスは利用者がいないと収入がなくなってしまうので、運営が厳しい時期は何度もありました。サービスを利用し続けてくれれば安定した収入が入ってきますが、それでは利用者さんがご自身の力を発揮できません。理想の生活を思い描いて、チャレンジしてもらう。いつまでも支援し続けるのではなく、自立して社会とのつながりを持てれば、そこで支援は終了になります。
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―孤独・孤立を解消するヒントを教えてください。
普段しないことをやってみると、おもしろいかもしれません。いつもと違うものを食べたら、それがおいしくてもそうでなくても、つい誰かに話したくなるでしょう。普段と少し違うことをやってみると、本来起きていたはずの歴史が少し変わる。それは、自分の中の何かが変わるきっかけになるかもしれないし、誰かの行動や社会の中の何かを変えることになるかもしれません。高い壁を越えなくても、小さなことでいいんです。
そして、自分の力でどうにもできないことには、がんばらないことも大切です。がんばりすぎてうまくいかないと、かえって辛くなってしまいます。そのようなときはお願いして、周りの人にがんばってもらいましょう。
自分の孤独・孤立を理解しておくことも大事です。「こんなときに孤独だと感じる」「こういうときに孤立してしまう」とわかっていると、自分を客観的に見ることができるからです。
一方で、孤独・孤立に浸るのもありだと思います。とことん浸って味わいつくしたら、フラグを立ててください。「助けて」「気づいて」と何かしらのフラグを立てたら、周りが気づきます。そのためにも、フラグに気づける社会を作っていかないといけないですね。
【鳥取県にて、ワークショップを開催🎪✨】
鳥取県内で福祉活動や、福祉の看板を掲げずとも、県民に寄り添い、
居場所や様々な機会提供をしている個人・団体が集まり
「情報共有」「関係作り」ができればと企画いたしました。
みなさまのご参加、お待ちしております。
■ワークショップ概要
日時: 2025年1月29日(水曜日)14時〜16時
場所: 倉吉交流プラザ 視聴覚ホール
〒682-0816 鳥取県倉吉市駄経寺町187−1
内容: オープニング
ゲストによるトークセッション
ワールドカフェによる団体同士の情報共有・関係構築
クロージング
参加費: 無料
ワークショップの詳細・お申込みはこちらから:
https://megu-inc.jp/media/watashitofukushi