18、その少年の曖昧なゴール
その少年は知らない街に行くのが大好きだった。
友達のつかまらない休みの日は、自分の知らない道を探索した。
いつもの道のいつもの角を、曲がらないで真っ直ぐに行ってみたり、
ランダムに、右左右右左右右左…などと事前に決めてそれ通りに自転車で走ったりと、色んな方法で知らない道へ出て、知らない街へ行った。
時にはオニギリを持ち1日中、右左…と繰り返したりした。
それが冒険のようで、その少年は楽しかった。
昔、おじぃと迷子になった冒険の感覚が強く残っていた。
(おじぃとの迷子:【6、その少年の冒険】参照)
ひとりでの冒険のゴールは、大きな公園に出たら終わりと何となく決めていた。
そして公園で何をするでもなく、公園のベンチに座って一息ついたら帰路につく。
稀に開始してすぐにゴールにたどり着いてしまうこともあったが、
その時は「そんなに大きくないな」とゴールの線引きはすごく曖昧だった。
結局は自分が疲れたか、辺りが暗くなり始めたかであった。
なんだったら、公園にたどり着く前に帰ることもあった。
6年生にしては少し小さいマウンテンバイクで、その少年は色んな場所へ曖昧なゴールを目指し出掛けた。
隣の校区の小学生がたむろする駄菓子屋、ホラー映画に出てきそうなボロボロの神社、近所の小さい川の上流の大きな河、絶対に住みたくない勾配がえげつない坂道のある山のふもとの住宅街…。
そのどれもが、その街で住む人にとってはただの風景であって、なんてことのない日常なのだが、その少年にとっては全てが刺激的であった。
そんな曖昧なゴールのない行き当たりばったりな冒険の中に、明確なゴールを決めた冒険があった。
そのゴールとは、城だった。
社会の授業で習った、江戸時代に建てられたその城をゴールにしたのだった。
その城には、遠足で行ったことも、父に連れて行ってもらったこともあった。
しかしその少年はひとりで行ってみたいと思った。
いつもの冒険とは違い、前日から地図を広げルートの確認をした。
「最短」ではなく「簡単」な道を探した。
なるべく曲がる回数が少なく、大きめな道で目印になる大きな建物のある道。
この時に初めて迷子になるということの恐怖を感じ、迷子の本当の意味を知った。
今まではゴールのない冒険だったので迷子になった方が楽しいと感じていた。
が、ゴールを決めた冒険ではそこにたどり着けないかもしれないという怖さを知った。
ゴールのある冒険の前日はおじぃの家に泊まっていた。
この冒険は長丁場になると考えたその少年は、おばぁちゃんにオニギリを作ってくれと頼んだ。
おばあちゃんが「なんで?」と聞いてきたので、その少年は
「城に行く」
と答えた。
おばあちゃんは少しの間のあと「…はい」と言った。
その先を聞くのも面倒な様子だった。
城攻め当日、アルミホイルに包まれた母の作るオニギリよりひと回り大きなオニギリをリュックに入れその少年は、出陣した…。
つづく…。
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