1、その少年の誕生
その少年は生まれてすぐに母方の祖母に預けられた。
母親の足が悪く、出産後はしばらくの入院が必要と医者から言われたからだ。
なぜ祖母の家かというと、
その少年には、生まれた時に父親はいなかった。
なぜ父親がいないのか…。
それはその少年が16歳の時に理由を知ることになるのだが、それはまたその時に。
祖母の家はすでに、
4歳上の姉と3歳上の兄は、祖母の家を我が家のようにひっくり返していた。
祖母のお乳を飲んだわけではなかったが、
母親のように常に抱かれ優しくささやく祖母はその少年にとって、もう母親そのものだった。
祖母の旦那、おじぃ(その少年が言葉を覚えた時にはそう呼んでいた)は父親らしさは一切なく孫の前でタバコを吸い、毎晩酒を飲み、好きなだけオモチャを買い与え、孫たちに頭をはたかれても笑い…ただただ孫たちを甘やかせていた。
姉や兄も赤ん坊のその少年には興味津々で、その少年を軸とした生活が祖母とおじぃの家で行われていた。
そんな日々が数ヶ月続いたある日。
母が退院をし、我が子らを迎えにきた。
姉と兄は大喜びで母の胸へと飛び込んでいった。
しかし、その少年は母に抱かれるのを拒否し、大声で泣いた。
その少年からすると、
祖母に抱きしめられている方が安心し、知らない人の腕の中は不安でたまらなかった。
もしかすると、これから3人の子供を女手一つで育てなくてはいけない母の不安を感じとって、その少年も不安になったのかもしれない。
泣き止まないその少年を見て、
おじぃが「今日はもう帰れ」と言った。
母はその晩、その少年よりも苦しく、悔しく…泣いた。
おそらくおじぃは、ただもう一日だけその少年といたかっただけだろう。
自分が孫といたいが為に、
自分の娘の手助けをせずに、帰らせるというとんでもない選択をしたのだ。
驚愕。
その後、母は毎日祖母の家に行きその少年の不安を取り除いていった。
おじぃは母を帰らせる理由が日に日になくなっていった。
そして、母とその少年は一緒にきょうだいの待つ我が家へ帰ることとなる。
同時に、おじぃが我が家へ毎日のように来ることになるのだが…。
家に帰ると、そこにはまた新たに知らない人物が生活していた。
その人は姉と兄から「お父さん」と呼ばれていた…。
つづく…。
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