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邂逅。
あれは間違いなくN君だった。「N君!」と思わず声が出そうになったけど、きっと彼は私のことなんて忘れてるだろうと思ってやめた。階段を下っていくN君は昔と何ひとつ変わっていなくて、すれ違った私はすっかり高校生の頃に戻ったような気分になって、あの頃を思い出した。
今思えば、N君は発達障がいの一種だったんだと思う。彼は私たちと同じ進学校に通っていたし、私たちと同じクラスで同じように授業を受けていた。だけど、彼の言動はいつもどこか変わっていたから当時の私たちにとっては不思議な存在だったし、やっぱり世界から浮いていた。
ある時、家庭科で将来の自分について作文を書く課題が出た。それぞれが将来の夢や目標を書いて提出する中、N君は「そんなもの机上の空論に過ぎない。」と言い捨てた原稿を提出した。私は友人と一緒に大爆笑して、その正直さに二人してシビレた。
N君はその後、休みがちになって、そのまま留年して、それからどうなったのかわからない。だけど、あの階段ですれ違った男の人は何から何まで間違いなくN君だった。10年以上経った今でも、外見も纏う空気も何ひとつ変わっていなくて、どうだろう、中身も変わってないのかな。
なんていうか、強さっていうのは世界を綱渡りしているような気分と似ている気がして、こうでありたいと強く思いながら、目に涙をにじませる自分はまだまだ強さが足りなくって、だけど強さを求めることをやめてしまうと、途端に死んでしまいたい気分に襲われてしまうから、だからそうならないために私は強くなりたいと思う。
N君の世界が綱渡りばっかだとしたら、きっと抜け道も使わず、ズルもせず、まっすぐ綱渡りしてきたんだろうな。N君のことなんて何にも知らないけど。でもだとしたら、30年近くそうやって生きてきたのだとしたら、私は彼のことがとてもうらやましい。それは彼にしかできない生き方だ。生きづらくて誰もが避けるような道を、彼は一人で進んでいる。(いる、いたのかもしれない。全部私の想像だ。)
あー、なんだかちょっとびっくりして、いつも一緒にいた大好きなあの子に伝えたいなあと思った。
2017年08月15日
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