おまじない
体調を崩したのと同時に降りだした雨がやっとやんだ。
久々の太陽のおかげで、回復した身体だけじゃなく心まで軽くなる。
どうやら天気にまで左右される私の心と身体。
分かりやすくていい。
天気予報をよく見るようにしよう。
私予報でもある。
毎日電車を待つ間、
私は胸のTATTOOを撫でながら今日も頑張ろうと呟く。
今日はいつもより少し優しく撫でた。
嫌な夢を見たからだ。
夢の中で私は引っ越す前の部屋にいた。
そこには大好きだった人と、仲のよかった女の子もいた。
私の部屋、103号室で
彼は私以外の女の子と暮らしていた。
彼女は散らかっててごめんねって、
さっきまで洗濯しててねっていった。
私が彼と暮らしていた部屋
私が彼のためにしていた洗濯
もう彼と彼女の部屋
彼女が彼のためにする洗濯
耐えれなくてあるもの全部壊した。
私が買ったグラス、お気に入りの冷蔵庫
全部そのまま残ってるそれを全部全部壊した。
飛び散ったガラスを片そうとする彼女に
あなたは悪くないから離れていて、と
泣きながら謝った。
お風呂からあがってきた彼
大好きだったお風呂上がりの姿
裸で出てきて、見つめる私に
片眉あげて なに? って冷たく聞いていた
もう違った
なにしてんの って冷たい顔、冷たい声
細くてキレイな手で、よく撫でてくれた頬を殴られた。
ああ、あの頃の彼はもういないんだ
私の居場所はここじゃないんだ
そう思うと頬と胸が痛くて、涙が溢れた。
表情を変えず、私を見下ろす彼が滲んだ。
最悪な寝覚め
悪夢でしかない
まだ寝ぼけた頭でぐるぐると考えた。
現実でも彼はもう、
私以外の女の子との暮らしを始めているかもしれない
まだ夢に見たりするほど覚えてないかもしれない
夢の中の彼みたいに私を憎んでいるのかもしれない
どんどん 彼はもう、と溢れてくる考えを
どうにか抑えて体を無理矢理起こし、
コーヒーをブラックで飲み干した。
ちょっと高いパックをして
いつもよりキツめのアイラインをひいて家を出た。
大丈夫。
私も進むね。
少しずつでも進んでいる。
大丈夫。
休憩時間が終わる。
仕事に戻ろうか。
胸のTATTOOを撫でて、頑張ろうと呟く。