父のこと③
父は泣かない人だった。
仕事で怪我をしたときも、私と妹の結婚式で一緒にバージンロードを歩いたときも、両親が亡くなったときも、父が涙を見せることはなかった。
「悲しみ」を感じない人なのかな?と思ってしまうほどだった。
昨年5月のある雨の日、母が急逝。急性大動脈解離だった。
実家から車で1時間ほど離れたところに住んでいる私が、母が倒れたとの連絡が入り病院に到着してから、私が何度も「お母さん」と叫んでいる隣で、父は母の名前を、苦しそうに、呼んでいた。
そして、その時が訪れたとき、父の涙がこぼれた。
そのとき、父は本当に母を大切に想っているんだとわかった。
我慢強い父が、我慢できないくらい辛かったのは母の最期だった。
今、自分の時間が短いことを知っている父は、何を想っているのだろう。何を願っているのだろう。
最後まで病と戦う父を、私はそばで目に焼き付けておく。