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令和27年、「ミングル」のある暮らし。〜新時代のごはん装置が普及した、とある未来の物語〜

今のマンションに引っ越してきて一年が経った。令花との二人暮らしはケンカもなく和やかに送れている。令花とは大学のゼミが一緒で元々仲が良かったけど、一緒に暮らすとなると少し心配もあった。だけどそれも杞憂に終わり、楽しい生活が送れていることに、引っ越してきて良かったなぁと心から思う。

大学卒業後、私たちはそれぞれ就職して一人暮らしをしていた。それからニ回目のアパートの更新を迎えるにあたり、なんやかんやで一緒に暮らすことになった。お互いの家を行き来するのもめんどくさいし、更新料ももったいないし、正直、二人とも一人は寂しかった。

なんやかんやで持ち上がった二人暮らし計画。社会人四年目の冬には二人でいろんな物件を見て回った。その中でビビっときたのが今のマンションだ。築四年、間取りはなんてことない2LDKなんだけど、ダイニングにミングルがあるのが売りだった。

私の家には物心ついた頃からミングルがあって、その使いやすさは知っていたから、もう絶対にこの部屋だと思った。ちょっと家賃は高いけど、それだけの価値は絶対にあるからと、令花に熱烈プレゼンをした。

最近の賃貸物件は築浅だとミングル付きも増えてきたけど、まだまだ平成〜令和初期に建てられたシステムキッチン住宅も多い。私が前に住んでいたアパートは築32年で、日当たりもよくて気に入ってはいたけど、システムキッチンにはどうしても慣れなかった。まだ就職したてでお金もなかったし、家賃が安かったから契約したものの、仕事で疲れた後に立ちっぱなしで料理するなんて大変すぎて無理だった。私はもともと料理は得意な方だけど、自炊もからも遠退いて食生活はコンビニ頼り。「体は資本」だと母にもよく言われていたのに、こんなんじゃだめだなぁ、とは思っていた。

令花もそんな私の暮らしぶりを知っていたので、「ミングルのある暮らし」プレゼンにも納得してくれた。そうして、いっちょ奮発しますかと、二人でマンションを契約して、去年の春に入居してきた。

あれから一年が経ち、楽しい思い出がたくさんできた。この家に決めて本当に良かったと思ってる。

私の会社は在宅でできる仕事が多いから、普段は自分の部屋にいることが多い。毎日六時前になると令花から「駅ついた!」のメッセージが来て、私は夕食の準備を始める。

実家のミングルは冷蔵庫が別だったけど、この家のは作り付けで使いやすい。ミングルチェアに座ったまま食材を取り出したら、下処理をしてお鍋にポポンと放り込んで軽く煮込むだけ。最近ではどこまで料理を簡略化できるか試していて、野菜も手でちぎれるものはちぎっている。案外その方が舌触りも良かったりする。あとはキッチンばさみで野菜を切って、簡単にサラダを作る。食後の後片付けが楽なのもミングルの良いところだ。

前の家は食洗機がなくて大変だった。ミングルには食洗機が内蔵されているから、今は食後のお茶を楽しむ余裕もある。ミングルの上をサッと片付けて、一息ついて、令花との何気ない会話に癒やされる。

私たち二人は幸運にも食事の好みがすごく合う。だからこそこんなにも仲が良く暮らせているのかもしれない。引っ越す前は外食に行くことも多かったけど、今ではほとんど一緒に家で食べるので、家賃や光熱費だけでなく食費も折半するようになった。おかげで一人暮らしの頃より無駄も減って、貯金もたまってきたし、日々の暮らしに追われる時間も少なくなった。

令花はいつも、帰り道におかずを買ってきてくれる。スープは私担当、メインディッシュは令花担当というわけだ。昨日は唐揚げ、一昨日は焼き魚だった。家で作るのにちょっと大変な料理は、だいたいお店で買ってくる。最近はそういう個人経営のデリも多くなった。

うちの母は昔から忙しく働いている人で、私も家事をすることが多かった。そんな我が家の中心にあったのがミングルで、そのおかげか、どんなに忙しくても家族で食事を囲む時間は大切に守られてきた。私が五歳の頃に我が家にやってきたミングルは、母の手によって様々な改良を加えられてきた。そしてその度に、母はミングルという製品がどんなに素晴らしいか力説してくれたものだ。私のプレゼン能力も母譲りのものかもしれない。

私が五歳の頃、ミングルはまだ発売されたばかりで、導入にあたっては結構大変だったらしい。価格も今よりずっと高価だったし、実家の構造上、施工も難しかった。それでも母は「ミングルは暮らしを変える!」と熱弁し、導入に踏み切ったそうだ。その頃の母は私と弟の子育てに奮闘していて、仕事もしているから尚更時間もなく、食事の用意には難儀していたらしい。だけどミングルを設置して以後、私たち一家の生活はいくらか穏やかになったそうだ。私もミングルを囲んで母と一緒に料理するのは好きだったし、私たち姉弟は、大きくなるにつれて色々な料理を教えてもらった。

そんな子供の頃のことを思い出して、久々に母にメッセージをしてみると、とある古い文章を送ってくれた。"新時代のごはん装置「ミングル」を自宅に作ってみた話" という、27年前、ミングルを開発した女性の直筆記録で、当時の様子が詳細に記されていた。昔の日本と今とでは、随分ライフスタイルも違うようだ。私が「なんだかドラマみたいな話だね」と言うと、母は「私もあの時、一つのドラマが始まったと思った」と言った。母はこの文章が公開された当時、大きな衝撃を受け、それから五年間ずっと製品化を待ち望んでいたそうだ。母のミングルへの熱い思いから、どれほどに革新的な開発だったかが伝わってくる。


なんて考えていたら、もうすぐ六時になりそうだ。さ、今日もご飯を作ろう。春キャベツとソーセージのスープ。そろそろ令花が帰ってくる。

令和27年 四月吉日




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ここまで書いたのは、架空の未来の架空の物語です。作中にも登場する有賀薫さんのレポートを読んで衝撃を受け(すごく面白かった)、こんな未来が来たらいいなと思ってお話を書いてみました。27年後の未来の日本が舞台で、女二人のルームシェアものです。「ミングル」という言葉はシェアハウスから来ているらしいのと、単純に漫画『るきさん』に憧れがありすぎるため、二人暮らし設定が浮かびました。笑

ミングル、本当に革新的な発明だと思います。

ミングル発明秘話を読んでいると、「日本の食生活を変えた発明家の物語」なんてテーマで、未来の朝ドラになりそうだなと思いワクワクしました。前シーズンの朝ドラを見ていた人ならこの感覚、わかるかもしれません。

物語中にも書きましたが、私は「料理は好きやけど、立ちっぱなしじゃなきゃいけないのはなんでなんや」と前々から思っていました。もしも座りながらできるなら、それだけで相当負担は減ると思います。料理が大変で体力仕事なのって、料理という作業自体よりも実は、「立ちっぱ」だからじゃないのかなぁ。

ミングルの構造は焼肉屋さんやしゃぶしゃぶ屋さんのテーブルを彷彿とさせますが(スタイリッシュな表現じゃなくてすみません)、ああいうお店では座りながらの「料理」なので、当然疲れることもありません。お客としてはあんまり「料理」してる自覚はないですが、あれも立派な料理ですよね。

ミングルはそんな立ち疲れの悩みも解消してくれそうな発明だと感じました(本来の意図はそこではないかもしれませんが)。その他、車椅子に座りながら使えるミングルもあるといいな〜と思いました。

とにかく面白いレポートだったので、間取り好きも建築好きも家電好きも水まわり好きも料理好きも、ぜひ有賀薫さんの記事をご覧になってみてくださいね!

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綿生しあの
HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞