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【11日目】ウルグアイ牧場滞在記2019

DAY 11 2019/09/05


6時起床。
ホットミルクとコーヒー、クラッカー、リンゴの朝食。


ミゲルは朝から鼻水が止まらない。
昨日のバイクがだいぶ寒かったので、風邪を引いたようだ。


今日はミゲルのお姉ちゃんが遊びに来るというので、ミゲルは朝一番で4号線のバス停まで迎えに出かけた。


7時30頃ミゲルとお姉ちゃんのイネスが戻ってきて、
軽く挨拶を済ませてから仕事に出かける。


今日もバイクに乗って、羊たちを移動させる。


オフロードもいいところで、砂利道、凸凹道、ぬかるみを走ってると、
どんな道でも対応できるようになってくる。


約1000頭の羊たちの移動は20分で完了する。


今回は生まれたばかりの子羊たちが多く、歩くスピードが遅い。


ゆっくりとバイクを走らせて、子供が母親に追い付くまで待つ。

しかしパドックに移したところで、3匹の子羊たちが母親から離れてしまった。


彼らだけでは生き残れないので、親の元に戻す方法を考える。


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人間が連れて行っては、群れが逃げてしまうので、そう簡単に群れに戻すことはできない。

しばし彼らを見守りながらの待ち時間。

生まれて間もないと怖いものを知らないので、
3Mくらいの距離にいても逃げない。


「めーめー」と羊の鳴き声をマネすると、鳴きながらすぐ近くまで近寄ってくる。


しばらく待っていると、母羊が心配そうに近くまで戻ってきた。


少数でも群れを作れば問題ないというので、彼らからすぐに離れ、ベースへと戻る。



ベースに戻ると今度はトラックに乗って、はぐれたオス羊を群れに連れ戻す。


脚を縛った羊を荷台に乗せ、群れのいるパドックまで連れていく。

家へと戻り、ランチは4人で、いつもよりも少しにぎやかな食卓。


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昨日たっぷりと寝たせいか、シエスタは眠れず、
13時にはベットを出てスペイン語の勉強。

午後からの仕事は牛と共に。
いつもの仕事なので、カメラは置いていたのだけれど、途中で皆がカメラを持って来いという。

何のことかわからずにカメラを持ってくると、
逆子で出産できない母牛の帝王切開手術をするという。

手術を待つ牛からは、破水したような跡がみられる。

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(手術を待つ牛)

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左腹が大きく膨らんだ母牛の首に縄がかけられる。
扉が開くとともに飛び出した牛は、手際よく柱と柱の間に縛られていく。

バンザイの状態で、腹部の毛をきれいに剃り、つるつるになった肌を石鹸で洗い、麻酔注射を打つ。


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(ナイフで毛を剃っていく)

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(麻酔)


手術を担当するのは、ここで14年働くハビエルだ。

何度も同じところをなぞるように、よく研がれたナイフを当てていくと、鮮やかな血が少しずつ広がっていく。

お腹に穴が開くと、左手を中に入れ、
逆手に持ち替えたナイフで、内臓を傷つけないように切り開いていく。

母牛が動き出さないよう、6人のガウチョが頭や体、脚を押さえている。


切り口が小さいせいか、思いのほか出血は少ない。

20㎝くらいの切れ目が出来ると、次は両手を突っ込んで
慣れた手つきで胎盤を見つけ出す。


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胎盤の端にナイフを入れ、子牛の後ろ脚を引っ張り出す。

子牛の脚を縄で括り、2人がかりで引っ張ると、するりと体が出てくる。

子牛は鳴き声をあげない。



母牛のお腹からは内臓が外に飛び出している。
すぐさまお腹の縫合に取り掛かる。

子牛は別の場所に移動し、アベルが蘇生処置をしている。


口に手を突っ込んで、ぬるぬるとした粘液を取り出し、
気道に入った羊水を吐き出させるように、後ろ脚を持って上下に振る。

僕も途中で撮影をやめ、アベルの手伝いをする。


子牛の心臓は動いているものの、呼吸はしておらず、
だらりと舌が出て、目はうつろだ。


何度も何度も試したが、子牛が息を吹き返すことはなかった。



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母牛の元に戻ると、お腹の縫合は終盤に差し掛かっている。


麻酔はしてるものの、牛は時折苦しそうにうめき声をあげる。

脚を動かすと手で押さえている内臓が飛び出してくるため、
お腹が上に向くように、再度脚を縛りなおす。

使用する器具は消毒液に付けられ、アルベルトはハビエルの横で助手をしている。


まだ経験の少ない若いガウチョたちは、真剣な眼差しで作業を見つめている。


次は彼らがこの作業を受け継いでいく。



30分程度で縫合は終わり、
腰が固まったハビエルは、中腰で立ち上がる。


腹部は消毒液で入念に洗われ、お腹についた血もきれいに洗い流される。

紐をほどかれた母牛はしばし呆然と座っており、
すぐには立ち上がらない。


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次の仕事の準備をしていると、いつの間にか母牛はいなくなっており、
血だらけだった地面は、バケツにくんだ水で流されている。


母牛が歩いてパドックに出ていく様子が遠くに見えた。

いつの間にか石垣には新たな牛が移動させられており、
何事もなかったかのように、仕事は再開する。


食肉として売られていく3000頭の牛は、
出来る限り生き延びられるよう、ガウチョたちに守られている。



今日は長い一日だった。




ミゲルは風邪のため、途中で家に戻っており、
僕はシャワーを浴びて、作業着とパンツと靴下を洗う。


夕食までは、暖炉を囲みながら冷やしてあったお土産の日本酒を飲んだ。

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(メンデスファミリーと)

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(豚肉のアサド)


そのまま夕食を食べ、しばし談笑。

ここに来て、もう10日が経った。
僕にとってはすべてが完璧で、これ以上の暮らしは無いと思える。

15年前は電気もなかったという。

ガウチョたちは今でも毎朝、暖炉で焼いた肉を食べている。




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