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頼朝の死_01 千葉純胤の時空移動

建久9年(1198年)秋。

下総にある千葉一族の館。

千葉一族とはこれより二十年ほど前に興った治承・寿永の乱、いわゆる源平合戦の折に源頼朝の挙兵当初より支えてきた一族である。

ほとんど自前の勢力を持たずに幽閉されていた頼朝が忽然と下総上総の一大兵力を手に入れ、天下を掌握するまでになったのは千葉一族の存在が大きかった。

今、千葉一族の館の奥部屋には当主である千葉常胤が床にいて上半身起きている。その傍に次子の師常が座り思い出話にふけていた。常胤は齢八十になるもまだまだしっかりしていた。師常は相馬師常と名を変えていた。

「篤胤との出会いが我らの運命が大きく変えたわい」

「そうですね父上。下総をやっとのことで守り続けていた我らがここまでこれたのも篤胤の御蔭です」

篤胤とは未来から常胤の子供たちへ憑依してきた千葉一族の子孫だ。千葉一族が歩んできた歴史を節々で教えてくれた。だからこそ今思えば荒唐無稽な決断の連続が身を結び今に至る。篤胤自身はある日忽然と消えてしまっていたが。

常胤は語らいを続ける。

「あの頃は隣の藤原親政がちょくちょく攻めてきており、妙見様に日々祈っておったの」

「篤胤は妙見様の思し召しだったのでしょうか」

妙見様とは千葉一族を強力に守護する氏神だ。この部屋の奥にも妙見様が祭ってある。

常胤はさあと答えるものの笑顔で手を合わせ、

「そうじゃのう。こんな感じで『一族総出で困難に立ち向かってまいりますので何卒お力をお貸しくださいませ』と毎日妙見様にお願いをしておったわい」

その刹那、襖の奥でガタンガタンと大きな音が響いた。

そして襖が勢いよくバッと開き、一人の男が立っていた。珍妙な真っ黒な衣をまとっていた。

「あー。本当に来れちゃったよ。凄げえ」

師常は脇に差していた刀の鍔へ手を添え、何者!と叫んだ。

「僕?純胤と言います。千葉純胤。たぶん貴方たちの子孫です」

純胤と名乗る男は続けて話した。

「いまいつですか?元号とか季節とか」

師常は正面にいる黒い衣の男に「建久9年の秋」と返した。

「建久9年か。1198年だな。秋なら10月くらいかな。なるほど、じゃあそろろそろ頼朝が落馬して重症になります。この世が荒れる始まりが近づいてきてます」




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