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千葉篤胤の転生記_21~治承・寿永の乱

ここ1年半ほどに膠着状態が続いていたが、遂に動く。

朝廷より平氏に「北陸追討の宣旨」が降りた。これにより再び平維盛を総大将として10万の軍勢が北陸へと進んだ。北陸は源義仲が束ねる地だ。

その報は全国に飛び、千葉一族の元にも届いていた。

篤胤は正直驚いた。篤胤が知っている未来は「源義仲が京へ攻め入り」のはず。それが逆に平氏に北陸が狙われるとは。

この時代にうろ覚えしかない篤胤としては、平氏の北陸追討が篤胤がいた先への正しい世界なのか、それともなにか違った世界なのか、皆目見当つかない。

ただこのまま起こっていることを見過ごしていても仕方ないので、義仲の元へ向かい、なにか義仲が京へ攻め入る流れに出来ることをせねばと強く感じていた。篤胤は千葉一族の当主である常胤に北陸へ向かう事を申し立て、許しを得、北陸の越中へと急いだ。いつもの通り胤通として。

急いで向かうも幾日が過ぎていた。篤胤が越中に着くも、義仲軍はすでに越前が平氏軍の元に堕ち、加賀で紛争している最中であった。もう加賀が堕ちると越中しかないところまで義仲軍は追いこれまれてしまう状態であった。

混とんとした義仲軍の中、常胤が持たせてくれた書状の御蔭かすんなり中枢へと通してくれた。そこで1人の武将と会う。その武将は今井兼平と名乗った。義仲軍の副将だそうだ。

今井兼平は胤通を見るなり、「なんと・・」と呟いた後、少し会ってほしい方がいると離れの奥屋へ通された。篤胤一人でぽつんと奥屋にいた。しばらく待つと一人の女性が奥屋へと入ってきた。

その女性は巴と名乗った。巴といえば義仲の奥方にあたる人だったと篤胤は過った。巴の眼は篤胤と同じく片目が真っ赤だった。巴は話を続けた。

「貴方の眼も赤い目をしています。貴方の中にはもう一人のだれかがいますか」

「います。僕は篤胤といいます。未来から来ました。いまはこの時代の胤通という先祖の体を借りてこの世にいます」

「そうですか。両目が赤いので未来から来た方と私は話しているのですね。それではこちらも切り替わりましょう」

巴はそういうやいなや、巴の眼はみるみるうちに両目が赤くなった。

「あたしはオキク。あんたはアツタネだったね」

「はじめましてオキクさん。オキクさんはどの元号の時代から来たか聞いていいかな」

「あたしは元禄だよ。あんたは」

「元禄か。僕は令和という元禄よりは300年先の未来だよ」

「300年かい。あたしも結構未来からここへきたつもりだってけど。あんたはずいぶんと進んだところから来たんだね」

「オキクさんはこれから源義仲がどうなるかしってるでしょ」

「知ってるさ。あたしの住んでた町にこの時代の事を講談する男がいてね。何度も木曽の義仲の話を聞いたもんさ」

「いまこんなに平氏が攻めてきてるけどオキクさんは心配じゃないのか。僕が知ってる義仲は、京へ攻め入るんだけど」

「あんた、未来から来てる割にしらないね。安心しな。これから倶利伽羅峠ってところで快進撃をするから。そこが義仲の見せ所さ」

オキクさんは笑いながら答えた。篤胤は自分の知っている世界と同じであると想いを持つことが出来て安心した。しかし別の事が気にはなっていた。義仲は京に攻め入ったのち、しばらくは天下を取るも、しばらくして義経に滅ぼされてしまう事である。

「そうか、義仲はこれから京へと攻め入るんだね。でも、それからの事もオキクさんは知っているだよね」

「そりゃ知ってるさ。いつかは義経にやられちまうんだろ。あたしは義仲や巴たちが小さい頃からこの世にきててね。ずっと窮屈な思いをして、いまも平氏の大軍に耐えて戦っているのをみてると、これからの京入りが晴れの舞台だよと思えてならないんだ。元禄で町娘だったあたしが義仲や巴を知っているくらいなんだ。多少の寿命なんかより大切なことをあの子たちは掴むんだよ。凄いことじゃないか」

オキクさんはそう言いながら朱の両眼は潤んでいた。










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