千葉篤胤の転生記_19~治承・寿永の乱
いま篤胤は胤通として鎌倉の北条館にいた。北条家の嫡男、北条義時に用があって訪れていた。胤通と義時は年も近いからか気が合い、ここ最近はよく会っていた。篤胤も胤通を通して義時とはよく語らっていた。義時としては中に篤胤という別人格がいることは露知らず、なかなか複雑でもあるが。
「胤通、これから姉上と頼朝様がこの館へお寄りになる。あとで挨拶に伺うんだが、一緒に行こうよ」
義時から不意に頼朝への謁見の誘いがきた。千葉一族とはいえ早々に頼朝に会うことはない中、飄々としている義時は喰えぬなと篤胤は思った。せっかくの機会なので、篤胤はもちろんと返答した。
そのうち、頼朝一行が北条館へ訪れ、源頼朝と同行してきた安達盛長と義時の父である北条時政が奥の間で話を交わした。しばらくしてから義時が呼ばれたので、篤胤も一緒に奥の間へと向かった。
一番奥に頼朝が座し、その左右に北条時政と安達盛長という中、頼朝の対面で義時、義時よりやや後ろで篤胤という位置になった。
頼朝と義時も久しぶりだったようで、最近の様子などお互い先ずは話していた。近況の語らいをひととおり終えた後、頼朝のほうから伝えておきたい話がと切り出してきた。当初、安達盛長がその言を塞ごうとしていたが、頼朝が制し、千葉のものは我が同族と同じであるので構わぬと話を止めなかった。
「義時。いま源氏と平氏が東西に別れてこの国を束ねている。この1年近く特に代わり映えはない。このまま角突き合わせるより、ならばひと昔の様に源平揃って朝廷をお支えする事を後白河上皇に奏上しようと考えておる」
篤胤にとって源平が手を取り合う世界は知っている未来とは異なる世界だった。頼朝はその後もここらで和解したほうが国の為になるとか話を続けていたが、その後の動乱とは全く違う道の話であった。
とはいえ、いまの世の実情から考えれば、源平どちらかが倒れるまで戦を続ける事は愚行にも視えるので、今が半分ずつの統治であるなら、そのまま半分こしましょうというのは至極全うな考えでもある。
篤胤としては自分が知る世界といまとこれからの世界は違うのかもしれないと過るも、つい1年半前には平家が圧巻していた世が篤胤の知る未来と道程同じくドラスティックに突き進んできたこともまた知っている。
義時はそれが世の為人の為にも安穏が訪れ、懸命な判断と感嘆していた。頼朝は気を良くしたのか、篤胤にも遠慮なく申せと話を振ってきた。
「頼朝様のお考え、戦を辞めることは平穏な世が訪れることになるやもしれません。果断に富んだ考えです。とはいえ沸々と火種を残してしまう事にもなります。朝廷にそもそもの武力がない以上、ただ争いが終わる事を伸ばしてしまうだけになってしまうともいえます」
頼朝は篤胤の意見を聞くも、すこししかめ面になりながら、ではどうせいと返した。篤胤はこの1年動きがないことを打開するにはこれしかないと思ったことを話した。
「頼朝様が東国の武士一同を引き連れ、堂々と進軍して京へ進むというのは如何でしょうか。京を治め、その勢いで平氏を西へ西へと追いやるのです」
頼朝は篤胤の話を聞くも、声高らかに笑い始めた。頼朝に吊られ北条時政と安達盛長も笑っていた。
「威勢がいいのう。それは素晴らしき考えじゃ。しかし東海には源信義もおり無下にできぬ」
頼朝はそう話して終えた。