高校生が議員になれちゃう世界線②【創作大賞2024 漫画原作部門】
「カンナ、出るって言ったらどうする?」
ハジメの言葉に園崎カンナはしばし固まっていた。時間にして5秒ほどだろうか。すぐに正気を取り戻した。
「本当!やっとその気になってくれたのね」
園崎カンナはえらくテンションが高くなっていた。話すのも終わらないうちに鞄からなにかごそごそ分厚い書類みたいなものを鷲掴みにして出してきた。立候補説明書と申請書類でござい、と早くも手続きの話へ移行しようとしていた。
「ちょいちょい、カンナさんよ。『出るって言ったらどうする?』とはお返事しましたが、なにをどうしたらいいのかわからないから先ずはカンナさんの知ってることを教えてくれよ」
「そうね。ハジメちゃんはついさっき迄、興味無かったから知らない事だらけよね。かしこまり。放課後にカンナ先生の『ゼロからわかる立候補』を話しましょう」
「はいはいカンナ先生。よろしくお願いしますよ」
ここまで数分のやり取りであったが、千葉ハジメと園崎カンナは授業のチャイムと共にイチ高校生へと戻った。
ようやく授業が終え、放課後となり、改めて園崎カンナと千葉ハジメはがらんとした教室の真ん中で対峙して座った。
「さあさあ、カンナ先生の『ゼロからわかる立候補』が始まります。はい!ハジメちゃん、先ずは質問を受けるね。申請方法あたりかな?」
「いや、まだその次元に至ってないので、ガチでゼロからお願いします」
園崎カンナは、貴方それでも房総市民ですかと少しさげずみ調に返してきたが、やれやれと話を続けた。
「ほんーとにゼロから話しますね。では質問です。房総県房総市は政令指定都市ですが、全部で何区から出来ていますか?」
「それなめすぎ。花区・稲区・美区・央区・若区・青区で6区」
「正解!ではハジメちゃんのお住まいは何区ですか?」
「若区だよ」
「正解!ではそれぞれ今までは市議会議員の定数は何名ですか」
「いきなり難問だな。分かりません」
「正解は花区が10名、稲区が8名、美区が8名、央区が10名、若区が8名、青区が6名の計50名となります」
「若区8名も議員いるのかよ」
「そうよ。でも今回は従来の議員が専業議員として25歳以上という立候補条件が変わりません。ハジメちゃんが立候補出来るのは兼業議員の方。こちらは18歳以上だからね。更に問題です。専業議員と兼業議員はそれぞれ何名の定員になりますか?」
「それはニュースでよく『半分』って言ってるから判る。若区なら半分の4名ずつだ。全体も半分ずつの25名と25名」
「正解。では兼業議員とはどういう人でしょうか」
「兼業議員は今してる事をしながら議員をするってことだろ。俺がなったとしたら高校生しながらやるって事」
「まあ正解です。他にも専業と同じく議会で決議権があるとか、兼業の月報酬はざっと見積もって10万円とかあるけど…」
「え、月10万も貰えるの。すげっ」
「そこらのアルバイトじゃないんだから。発生した実費分は別でちゃんと出るらしいけど。ちなみに専業議員は月額80万円程度です」
「格差あるな」
「では問題は続きます。兼業議員の意義はなんでしょう」
「その報酬落差からすると経費削減?」
「結果的にその視点も含まれています。50名半分の報酬を削って年間3.5億円は大きいよね。でもそこがメインではないよ。本命は『新しい地域行政の創生を模索』すること。その為に全市民から募っているの」
園崎カンナは目の前のペットポトルのお茶をちょっと飲んでから続けた。
「『新しい地域行政の創生を模索』ってところなんだけど、その前に。今回の兼業議員選挙のさわりを話すね。ハジメちゃん、選挙って言ったらどんな事をイメージする?」
千葉ハジメは少し考えてから答えた。
「やっぱり立候補者がスーツ着て自分の名前が入ったタスキして、街宣カー載って市中回るとか。駅前で演説したりとか。通学時にみたことあるよ」
園崎カンナはウンウンと頷きながら聞いていた。
「そうね。おそらく専業議員に立候補する人たちはハジメちゃんの想像してる通りの選挙活動するでしょうね」
「でもそれだと選挙ってかなりお金もかかるし、時間もかかっちゃう。学校ならまだしも仕事してる人は休職したり辞めないと出来ないよ」
「兼業議員の選挙活動はね。広く市民から募りたいという事からかなりシンプルに設定されたの」
「兼業議員が立候補したら新しい地域行政の創生プランのプレゼン資料と自己紹介&補足動画を選対管理サイトへ提出するだけ。むしろ既存の選挙活動はだいぶ制限されてるの」
「あとは選挙当日に投票で決まるのは一緒だよ。この投票は従来の投票場のみかオンライン上での投票を兼業議員だけ実験で実行するかは検討中。これならスマホで簡単に市民が視れるし、そういうのが苦手な人向けには市役所や公民館で特設閲覧ブースを設けたり、冊子とかも公共施設には置いてくれるらしいね」
「へぇ、そうなのかぁ。一瞬タスキして駅前でしゃべるの想像しちゃってたけど助かった。でも動画UPは覚悟がいるな」
園崎カンナは動画くらいyoutuberになった気持ちでやればいいじゃないとさらっと言ってきたが、千葉ハジメはそんな簡単に割り切れないだろうと過った。園崎カンナは話を続けた。
「ハジメちゃん。今までの議員はどう名前と顔を覚えてもらって『ダレ』を選ぶかが要だったけど、今回の兼業議員は様々な地域行政プランに魅力や未来を感じて『ナニ』を選ぶかが核になると思う」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?