頼朝の死_03 千葉純胤の時空移動
頼朝が亡くなってすぐ嫡男の頼家が家督を継いだ。齢十八。鎌倉はおろか日本全国がざわついた。
同じ頃、下総にある千葉一族の館。奥部屋には当主の千葉常胤と次子である相馬師常がいた。常胤が師常に語り掛ける。
「純胤の言った通りになったのう」
「確かに」
「純胤は『この世が荒れる始まり』とも言っておったのう」
「左様でございます」
「師常。どう荒れると思う?」
「頼朝様という絶大な頂点がおられない今、頼家様ではまとまり切れず色々ありそうな疑念はあります。しかしどこの誰がどう蠢くかはなんとも」
「そうじゃのう。不穏ではあるの。では聞くか」
「聞くかと申しますと」
「純胤によ」
「父上、まさか」
「そうじゃ。呼んでみようかと思っている」
常胤はそう言うや奥に祭ってある妙見様の方へ近づいていった。そして妙見様の像に向かい、念じ始めた。『一族総出で困難に立ち向かってまいりますので~~』
その刹那、襖の奥でガタンガタンと大きな音が響いた。そして襖が勢いよくバッと開き、一人の男が立っていた。純胤だった。
「やっぱ召喚されるシステムか。なるほどね」
純胤は頭を少し打ったのか撫でながら呟いた。師常は死巣手無?と聞きなおすも、純胤は気になさずに未来の言葉ですと流した。
「またお会いできましたね。ご先祖様。おひさしゅう。今はいつでしょうか」
師常が建久十年の一月と返した。
「なるほど。この前から4か月程経っている感じですね。ではもう頼朝は」
「頼朝様はつい先日お亡くなりになられた。純胤の言った通り落馬された。家督は頼家様が継がれた」
純胤はうんうんと聞いていた。
「歴史の流れ通りですね。今後の事は今後で大事ですが。まずは気になる事があります」
「頼朝が亡くなったことは事実です。でも謎がある」
純胤は常胤と師常に頼朝はなぜ亡くなったを訊ねた。常胤は落馬であろうと返した。
「それは直接の死因ですね。齢五十とはいえ健康体の武士が死に至るような落馬はそうそうないでしょう」
「それはそうじゃが当たり所が悪く、不運だったのであろう」
「健康がかなりすぐれないとか、そもそもなにか病を抱えていたとか」
「とくにそのような事は聞いておらぬ。時折頼朝様とはお逢いしていたが、そのような顔色でもなかったわ」
「落馬してすぐお亡くなりになられたのですか」
「いや、落馬自体では亡くなっておらぬ。お亡くなりになったのはそれから1か月ほどじゃ」
「なるほど。だれかに直接殺められた様子もなさそうですね」
「そんな大それたことをする輩はこの世にはおらぬわ」
「まあ見え見えなことはしないでしょうね。僕はあっちで色々調べていましたが、頼朝の死に確実にこれだというのはなかったんです。大昔で書物しかヒントないですからね。でもこっちにきてご先祖様に現世のことが聞けて大分絞れました」
「まずひとつが落馬の後遺症で1か月後に亡くなった可能性。単純ですよね。もうひとつがかなり推測はいりますが、やっぱり殺されたんじゃないかと」
「なんと、そんな騒々しい話はどこもきこえてこぬぞ」
「馬に乗っている際に急に具合が悪くなったのか、落馬を機になにかされたのか」
純胤が話続けている中、師常が割って訊ねた。
「純胤、貴方はもしや誰かが頼朝様に毒を盛っていたと言いたいのか」
「察しがいいですね。そうです。なにか遅延性の毒が効いて落馬を引き起こしたのではと思ってます。突然の落馬は不自然ですよ」
「理由にあたりそうなことはあります。頼朝は朝廷になにかしようとしてませんでしたか」
「頼朝様は2年ほど前に娘の大姫様を帝の妃へと話を進めようとしていたようじゃの。話がまとまる前にお亡くなりになられた。次いで昨年は次女の三幡様を妃にと話をされていたようだがまたもお亡くなりになられた。おいたわしや」
「そこです、そこそこ。皇室と親戚になろうとして娘が立て続けに亡くなるなんてどんな不幸の元に生まれた方ですか。そして本人も亡くなるのですよ。これはなにかあると思っても不思議じゃないです。朝廷と親戚になって藤原氏が何をしましたか、平家がどうしてきましたか」
師常がまた割って訊ねた。
「すると朝廷の何某かが頼朝様の接近を拒んで事に及んだとも」
「そうかもしれません。もしかしたら鎌倉側で朝廷と近づきすぎる事で第二の平家になってしまう事を恐れた何某かもしれません」
常胤と師常は陰気臭さを感じ始めていた。真相は闇であるも不運では片づけられないと意識が芽生えていた。
純胤はすぅぅと一息着いた後、再び語り始めた。
「なんにせよ、新たに世が荒れる始まりとなりました」
「それはそうとこれからのことですが」
純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。