【β版】千葉篤胤の転生記_09
次目覚める時は日胤(ニチイン)なら頼朝に会えるかもしれない。千葉一族の中で誰の体でいつ目覚めるかは、ルーレットの如く運任せではあるが。源頼朝という篤胤のご先祖たちの運命を大きく変えた本人にはどうしても会いたいと篤胤は強い思いを持っている。胤頼(タネヨリ)が言っていた「賽の目は博打だけど願わないと叶わない」はなんの根拠もないが、すがる思いで篤胤は意識が戻りつつある瞬間から念仏のように「日胤日胤日胤日胤日胤」と呟き続けた。そして目覚める…
(私の名をそう連呼されますと寒気を感じるのですが)
正に「心願成就」。願いは叶い篤胤は日胤への意識へたどり着いた。と同時に日胤がなにか呪文のようなものを詠唱している言葉が聞こえ、眼前には祭壇のようなものがでんとあった。頼朝の元に祈祷へいくところを狙ってはいたが、まさか祈祷の瞬間とは。ジャストすぎました。日胤より祈祷に集中するので終わるまでは黙っているようにと一言あったので祈祷が終わるまで篤胤はだんまりして、ただただ目の前の祭壇と日胤が奏でる祝詞の声と時々わさわさとした紙の付いた木の棒を振るさまを眺めて聞いていた。
「頼朝様。これにて祈祷は終わりとなります」
日胤がすくっと立ち上がりくるりと半回転すると一人の男性が座っていた。優しげだが目が少し遠くを見ているような感じがする。篤胤としてはこれから日本中が騒乱に見舞われる中心人物という感じは全くしてこない。千葉一族の面々のほうがよっぽど武士というかギラギラ感が伝わってきていた。日胤が頼朝に京での話を交えつつ頼朝の近況を訪ねても出てくる話は北条には世話になっているだの奥方の事だの日常ネタしか出てこない。20年来の都で源氏の代表格である源頼政が隠居した話を振ってみても長年のお勤めご苦労様的な事しか出ず、篤胤はこの人は身の回りの事しか関心ないんじゃないかと思えた。
頼朝宅を出て帰路の中、篤胤は日胤に語り掛けた。
「源頼朝っていつもあんな感じなの?」
「そうですね。いつもと変わらないご様子でしたね」
「僕が皆さんに挙兵云々言っておいてアレなんだけど、なんか頼朝に拍子抜けちゃったよ」
「頼朝様としては永年幽閉されている身。出てくる言葉はあのような日常に限られたことしか申せないのでしょう。ただ…」
そう告げつつ、日胤は言いなおした。
「それはそうと篤胤。よくこの機会に丁度来れましたね。私の名前をあれだけ呼んでいたので願いが通じたのでしょうか」
「あー、お仕事中失礼しました」
「いままで次の目覚めはどうなりたいとか考えたことはあったのですか?」
「ないない。だってこんな事象、最近こそ受け入れはじめたけど、はじめはなんのことやらわからなかったもの」
「そうですよね。もしかしたら次の目覚めがいつとか誰とか願えば叶うなら鍛錬次第ではできるようになったりするのではないでしょうか」
篤胤はそれは考えてみなかったなと思った。今回できたんだし運かもしれないが試してみる価値はある。篤胤は次は誰で何時を願ってみるのがいいのか日胤に尋ねるもそんなことは自分で考えなさいと一蹴された。