宝治合戦_03 千葉純胤の時空移動
-下総 千葉宗家の館-
館奥には一人の幼子と一人の男がいた。
幼子は千葉頼胤。千葉家現当主である。
男は千葉泰胤。亡き胤頼の父である時胤の弟で、胤頼の後見人である。
千葉頼胤が妙見像の前になにやら唱えていた。
その刹那、襖の奥でガタンガタンと大きな音が響いた。
そして襖が勢いよくバッと開き、一人の男が立っていた。
「どうも純胤です!」
純胤は大音量で元気よく声を出した。
「あれから...あまり経ってなさそうですね」
純胤は泰胤に尋ねるも、寛元元年と答えた。
「寛元元年ですか。すると上総の千葉秀胤は今や時の人では」
純胤のなにかを含んだような言い回しに泰胤はサッと返した。
「左様。秀胤は今や従五位上となり、評定衆に加えられておる」
「それだけではありません。同じ評定衆の三浦光村と共に征夷大将軍である九条頼経を押し立てて、執権北条経時と権勢を競っておられますね。違いますか」
純胤は泰胤の顔を覗いた。泰胤は間違ってはおらぬと返した。
「いやぁ。千葉一族でここまで上り詰めたのは正直申して秀胤だけです」
純胤はニヤニヤしながら云った。
「ところで泰胤。僕を呼んだのにはこれからのコトで知りたいなにかあるからでは」
「そうだ。前回は本題に入る前に消えてしまったのでな。純胤よ。今度こそはちゃんと標を残してもらわぬと」
「承りました。では単刀直入に。上総とは一線を引かれよ」
「一線を引くとな。いまでも下総は下総、上総は上総と一線は引いておるが」
「十分ですが。評定衆とまでなった上総に寄り添う必要もなし。上総が本家である下総を呑み込もうとしたら踏ん張ってかわしつつ耐えるのです」
「それではいままでと変わらぬではないか」
「少し違います。いまや評定衆の千葉秀胤です。上総が千葉家の総代の様に振舞っている時もあるでしょう。そこは波風立たぬよう見過ごしなさい。変に本家として物申せば千葉秀胤はいっそ両総纏めてしまえとちらつきます」
そんなことを何年も続ければどちらが本家か分らぬではと泰胤は抗弁した。
「その点はご安心を。今の秀胤が一気に駆け上ったのは北条泰時から北条経時へ執権が代替わりをきっかけとしました。執権の代替わりはまたもや不意に訪れるのです」
純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。