千葉篤胤の転生記_10~治承・寿永の乱
治承4年4月。以仁王は全国各地の源氏を中心に反平氏達への平氏追討の令旨を出した。令旨とは皇族が出す命令文である。
慎重に全国各地へ令旨を伝えていたはずだったが、早々に平氏側に露見してしまう。平氏としては以仁王を捕らえ土佐へ流してしまう事で決着するつもりで進めていた。
しかし以仁王は配流をよしとせず、自らが捕捉される前に園城寺へ逃れ、挙兵をする事で抗おうとした。治承4年5月のことである。
ー都某所 夜半 │胤通と胤頼ー
都は以仁王が園城寺に籠ったために蜂の巣をつついたような騒ぎがおこっていた。胤通の眼は両方赤い。完全篤胤モードである。胤頼が急くように篤胤へ語り掛ける。
「以仁王が令旨を出したまではいいけど、表に漏れるのが早すぎる。これじゃあ各地の源氏も戦の準備なんて整わないよ」
「以仁王が園城寺に籠った中、源頼政様が合流した。源頼政様だけじゃない。日胤まで駆けつけてしまっている。いまの以仁王の元に参じてもたかが知れているのに」
普段は涼しい顔をして飄々と語る胤頼が余裕もない顔をしている。篤胤はそんな胤頼をはじめてみた。篤胤も日胤のことが心配でならない。どうにか日胤の元へ駆けつけれないものかと思うも園城寺がどちらの方向にあるかすらわからない。
なにかすがる思いで篤胤は「日胤はどこだ」と呟き続けた。そして一瞬記憶が途切れたと思った刹那
(ようやく繋がりましたね。ようこそ)
篤胤には分かった。今は胤通の意識下でなく日胤の意識下にいることが。でもなぜ日胤の中にいるのか。しかもここは園城寺か。寺というから何か建物の中かと思いきや、ここは夜半の広場で眼前には茫々となにか館らしきものが燃えている。
日胤は篤胤に意識下で続けざまに語り掛ける
(胤頼からは園城寺にいると聞いているのかもしれませんね)
(でも園城寺はもう平氏方に囲まれつつありましたので、今は南都の興福寺へと向かっている最中です)
(篤胤にはいま何が起こっているのか見当もつかないでしょうが、私が念じて篤胤には私の元へ来てもらいました)
(とはいえ、あなただから呼び寄せることが出来ましたし、あなたが私への意識を向けてくれないと繋がれなかったので助かりました)
篤胤は何度か日胤は不思議な力を使う子とは聞いていたが、これもその力なのか。日胤は続けて語る。
(私にはもう時間がありません。篤胤にはお願いしたいことがあります)
(とはいえ、その前に目の前にいる御仁の相手をしなくては)
(あの男こそ以仁王の令旨の露見や挙兵を見切っていた張本人です)
日胤がそう語った向こうには燃え盛る建物の中より一人の男が出てきた。
その男を見た瞬間、篤胤は思った。
薄っすらと過ったことあるがそのままにしていたこと。
自分がここにいるという事実から容易く想像できたことであったのに…
男の眼は半分真っ赤だった。