宝治合戦_05 千葉純胤の時空移動
泰胤は純胤の問いに返した。
「安達景盛殿は実朝様がお亡くなりなった時に出家した身。わざわざ高野山を下山してまで下界のいざこざに口を挟むとは。しかも『三浦を滅ぼせ』とは申すまい」
「泰胤、そうは云っても承久の乱の時には下山して北条の談義に加わっている御仁ですよ。大事な節目には武人としての役目を果たそうとしています」
「ではこの度の下山にはなんの節目と云える。もう反執権派は評定衆から降ろされたのだぞ」
「そこです。そこがナゾなんです。執権としては反執権派を追い出した。旗印になる藤原頼経はもう京へ返してますし」
純胤は続けた。
「不穏な噂が立つ中、北条時頼は三浦泰村の次男である駒石丸を養子として受け入れたりしています。これは三浦家を安心させる策謀というより北条時頼がこれ以上の争乱を避けたいとの想いだったのではないでしょうか」
泰胤はそうであるかもと曖昧な返事をした。
「ここでカギとなるのは。やはり外戚。3代執権である北条泰時の正室は三浦家の娘である矢部禅尼。その嫡男である北条時氏は4代執権とならず、その子である北条経時が4代執権・北条時頼が5代執権となります。何故か。それは時氏が父である泰時より先にあの世へ旅立ってしまった故です。では4代・5代執権の母君は」
「安達景盛の娘、松下禅尼か」
「そうです。本来であれば4代が時氏、5代が経時か時頼と外戚が緩やかに三浦から安達へと移り、再度三浦が外戚にという道もありました。ところが急な安達へ時勢が向き、藤原頼経を担ぎ出す騒ぎを三浦家が仕出かした。ならばここでいっそのコトと安達景盛がちらついてもおかしくありません」
純胤はすこし深く息をすって続けた。
「後は堰を切ったようにコトは進んでいきます。安達の一団が三浦邸へ急襲します。対して三浦は立て籠ります。ここまでくると合戦に引きずり込まれる形になった北条時頼を傍観とはいきません。いずれかの陣営に討伐を命じる必要がある。安達へ向かって出すことはあり得ない。ここに至って北条時頼は覚悟をきめたのではないでしょうか」
「そして三浦家の娘を正室としている千葉秀胤も同じく追討の命が下り一族郎党自害となり、ここに上総千葉家は滅んだのです。鎌倉の世は外戚を巻き込んだ誅殺の世。遂に千葉家もその乱雲に巻き込まれたのではと僕は想っております」
純胤は一気に話をし、泰胤の顔を覗いた。
泰胤はしばし黙るも口を開いた。
「そうよの。今は殺るか殺られるかの世かもしれぬの。千葉家は下総上総でいがみ合うもなんとか無事にきていた。この度は他家の様に同族で殺りあうことにまで至ってしまった」
「泰胤。これからのことですが」
「これからとは」
「貴方がこれからすべきと心内で思い描いていることです」
「私には特になにかを思い描いていることはないが」
「まだ心内まで至ってないかもしれませんが。永らく両総並んでいた千葉家の行く末のことです。もう上総はありません。千葉家内のいがみ合いがありませんが、下総が上総を手に入れた訳ではないのです」
「上総という豊穣な土地を千葉家が手放すことになり、全国各地へ相馬など分家はあるにせよ、下総だけでは千葉家そのものの力が大きく削られています」
「衰弱した千葉家そのものの回帰をせねばと泰胤の心内にはあるのではと推測しますが如何ですかね」
泰胤はさあと濁した。
純胤は続けた。
「貴方は三回、千葉家の秘中の秘を体感しました。妙見様を通じての僕の召喚です。この様な奇跡と云える事柄を目の前にして貴方が千葉一族結集として何を想いつき、何を広めようとするか興味が尽きません」
純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。