千葉篤胤の転生記_12~治承・寿永の乱
ここは伊豆の源頼朝の館。篤胤は胤頼の意識下にいる。胤頼の眼は片方真っ赤である。
頼朝が奥に座り、胤頼と他二人が対面に座している。
真ん中が北条時政。頼朝の妻である北条政子の父である。左が三浦義澄。相模を拠点とる三浦党の長である。そして右に胤頼となる。
いまは「平氏を討て」との以仁王の令旨が届いてからのこれからを話すという事で集った次第。
以仁王自身は都にて討ち死にしたが、令旨自体は各国の源氏を中心に反平氏勢力へ拡散していた。その中でもかっての源氏の棟梁である源義朝の嫡男頼朝の動きは群を抜いて注目されていた。
本日のメンツは
北条時政は頼朝の義父として
三浦義澄は相模の勢力として
胤頼は下総上総の勢力、云わば父である千葉常胤と遠戚である上総広常の名代として
この場にいた。
これがいまの頼朝に加担する可能性のある兵力の全てとなる。
(篤胤、どう思う?本日の合議)
(どうって、今からここにいる主要関係者が以仁王の令旨に対して頼朝に今後の意向を窺うんじゃないの?)
(そうだね。たしかにそこが大事だね。でも頼朝様の今の想いがどうであれ、今後を誰が何を進めていくかが本日の合議の主役になると思うよ)
篤胤は胤頼が伝えてきたことがイマイチぴんと来なかったがそんなもんなのかねと思った。
北条時政がこの場の第一声を発した。令旨を受けてどうなさるのかと頼朝に伺った。ただ頼朝としては今立つのは本意でなくいましばらく様子見という返事だった。
しばらく頼朝を中心に様々話したが、特になにも進まず頼朝が本日はこれまでとさっさと出てしまった。
この場に残された三名はしばらく黙っていたが、北条時政が切り出した。
「頼朝様はまだどうされるか決めかねているとはいえ、各地の者たちが頼朝様の去就を見守り、平氏もこのままにはしておかないことを考えてれば、動く際のことも考えねばならない」
北条時政の問いに対して三浦義澄は、事あれば三浦党一同はせ参じる答えた。続けざまに北条時政は胤頼にも問うたが、胤頼としては上総下総は大軍としては海を渡って伊豆には来れないので武蔵まで連勝進軍して合流か海を渡り安房経由で来ていただきたいと返した。
胤頼の言う事はもっともなれど、三浦党だけで武蔵まで進軍は厳しいし、上総下総に頼朝一行がほぼ兵なしで来ても世間は頼朝を上総下総の神輿としてみてしまう可能性もあり、こちらもすんなりと頼朝としては選べない。
三者三様で探りながら話を続けるも一向に答えが視えない。篤胤は胤頼のいった「誰が何を進めていくか」の意味が分かった。篤胤は埒があかないなとおもい、胤頼に尋ねた。
(ねえ、これ答えないままずるずる話し続けるの?)
(見ての通りだよ。これは長引くね。皆それぞれの立場があるしね)
(結局、平氏と戦うには上総下総の兵力がないとどうにもならないんでしょ?)
(そこを露骨にならないようにいい具合になるのが大変なんだよ。頼朝様になにか光るものが義朝様の嫡男で或ること以外にあるといいんだけどね)
(なんか小競り合いとかでいいから一撃いれれば面子もたつと思うんだけどな。喧嘩でも初っ端が大事じゃない)
(篤胤、それだ。この場が決まるよ!)
篤胤の呟きを聞くや否や胤頼は声を発して北条時政と三浦義澄に語り始めた。
「ここはまずは頃合いをみて伊豆の国府か目代を襲撃することで、頼朝様の意思を世に知らしめたのち、三浦一党と上総下総が合流するというのでいかがでしょうか。頼朝様の活躍自体が世に広まれば、我らが陸路で集おうが海を渡って集おうが大した差はございません」
北条時政と三浦義澄はそれぞれ、さすが千葉殿と賛辞した。