宝治合戦_02 千葉純胤の時空移動
「『これから千葉一族最大の争乱が起こる』とは如何様な」
泰胤は純胤に訊ねた。
「そうですよね。気になりますよね」
純胤は応えつつ続けた。
「先ずは近々の話です。この度、不幸なことに千葉家は当主が切り替わろうとしています。その折は一族はおろか、他家にも影響がございます」
純胤はひと呼吸おいた。
「代替わりとは千葉家でも荒れるものです。それが北条家ならどうでしょうか」
泰胤はハッとした。
「今の北条家の当主は北条泰時、三代目執権です。たしかもうお年は」
泰胤はもうすぐ六十と答えた。
「そうそう還暦間近ですよね。そろそろ大往生はあってもおかしくないお年です。北条の次を担うは北条経時。こちらの齢は」
泰胤はたしかまだ二十歳前ではと答えた。
「左様で。頼胤ほど幼子ではないですが、おひとりで全てを進めるには拙い年齢ですね」
「千葉家の場合はどう頼胤の傍に付いて後見人をするかが権力となります」
「一方、北条家となると権力も膨大でありますが、仕組みも少々複雑です」
「次期執権となる北条経時の後見人になる以外に権威を振るやり方があります」
泰胤は察知し、詞を発した。
「征夷大将軍か」
「そうです。征夷大将軍、藤原頼経。彼自身に権力はなくとも、名目は勿論、北条家の主人筋にあたります」
「それなりの御仁が近くにいるとかいないとか」
泰胤は深く息を吸った後、返した。
「三浦家か...」
純胤はなるほどとしたり顔をしながら云った。
「やはり征夷大将軍の近臣には三浦の影があるのですね」
泰胤は頷くも、気になったことがあった。
「純胤。気がかりな点がある」
「なんでしょうか」
「治承の頃より早五十年ほど。いままでにも権力争いをしてきた」
「そうですね」
「その間、千葉家はなんとかやってきた。何故この度は『千葉一族最大の争乱』へと繋がるのか」
純胤は泰胤の問いへ返した。
「そうですね。北条家の代替わりがきっかけとなって始まるもまだこれは序章にすぎません。気を付けるべきは...」
純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。