#27 絶滅危惧種の悪魔
「Devil Ark」の活動が注目を集めている。少し不思議な語感で「ark」はキリスト教において「聖櫃」や「箱舟」を示す、何と言うか聖なる言葉だ。その言葉と悪魔は似つかわしくないな、と思っていたところ悪魔は悪魔でもタスマニアデビルのことであった。
こいつはオーストラリアのタスマニア島にしか生息しない肉食の有袋類で、最近は「デビル顔面腫瘍性疾患」という感染性の癌(!?)によって大きく数を減らしている。感染による影響を軽減するために、本土に保護区(これがark=箱舟だ)が作られ、再導入計画が進められてきた。2011年から続けられてきた計画の成果として、今年3,000年ぶりに自然繁殖による子供が生まれたと報告されたのだ。
いくつか気になるワードがあって、調べてみたのだが、「自然繁殖で」というのは動物園での繁殖成功事例は過去にもあるようであった。「3,000年振り」の根拠は、どうも本土の絶滅がディンゴによると結論付けられている点にあるらしい。ディンゴはオーストロネシア人の分布拡大(約6,000年前)に合わせてオーストラリアに来たイヌが野犬化したものだ。タスマニア島は最終氷期後(約1万年前)に本土と切り離されたために、ディンゴも島に渡ることはなく、本土の個体群だけを絶滅させたらしい。ただ3,000年と言う具体的な年代の根拠までは辿り着かなかった。まぁ、それでも人の引き起こした惨事が人によって解決された一つの好例には違いない。
さて、英語の報道も確認したところ、joeyという見慣れぬ単語に出会ったので、そちらも触れておく。英語圏では動物の子供は別の呼び名を付けられることがあり、例えば犬はpuppy、猫はkittenという具合だ。他にも、cub、calf、kitなどがあるので暇な人は調べて欲しい。件のjoeyとはカンガルーやコアラの子供を表す言葉で、有袋類であるタスマニアデビルにもこの語を使うのだと勉強になった次第である。
(2021/6/2)