見出し画像

#15 Not easy as 123

ABCは123と同じくらい簡単だ。と、嘯いた歌手もいるが、証明に35年かかった「ABC」も存在している。「ABC予想」のことだ。

簡単に言うと数学上の難問なのだが、1985年に提示された予想を証明したとされる論文が、つい最近、PRIMSという雑誌に掲載された。京都大学の望月新一教授(51)が論文を発表したのは2012年だが、その難解さから、査読に8年掛かり、出版までさらに1年掛かった。

今年は4年に一度の国際数学者会議が開かれ、そこでは数学界のノーベル賞とも呼ばれるフィールズ賞が授与される。まだまだ議論の余地がある(らしい)とは言え、ABC予想の証明は十分に受賞に値するだろう。

ところが、こいつは少し変わった賞で、40歳以下の研究者にしか与えられない。過去にはフェルマーの最終定理を証明したアンドリュー・ワイルズも年齢の壁(当時43歳)により特別賞という扱いにされている。

僕も若いころは学術賞の年齢制限なんて馬鹿らしいと思っていた。だが、年月は残酷である。昔はどんな研究でもできると思っていたのが、30後半を過ぎた頃から脳の老化を感じ、40になった時にはもう数学の研究はできないと自分でもはっきり解るほどだった。

研究者というものは自分の研究分野が一番だと信じて疑わない。僕が生物学を志し入学した日に出会った化学の教授に「生物は所詮原子の集まりなんだから、君は化学をやりなさい」と告げられ、面を食らったものだ。

それでも異論が出ないだろう事実があるとすると「数学が全ての学問の中で一番美しい」ということだ。僕にはもうオイラーやガウスが見た美しい景色を見ることができないと知ったときに絶望を覚えたものである。

だが、望月教授がABC予想を証明した論文を執筆したのは今の僕とそう変わらない年齢の時だ。僕ももう少しだけ自分の脳みそに鞭を打って、まだ見ぬ世界を見に行こう。

(2021/3/10)

いいなと思ったら応援しよう!