【2024年】データで紐解く獣害対策・ジビエ利活用
最新の狩猟動向についてまとめてみました。最新のデータではイノシシやシカ等による農作物被害額は156億円(令和4年度)となっています。近年、減少傾向にあったもののここ数年は横ばいとなっており、その原因は主にシカの生息地の広域化や対策の担い手不足にあるようです。最新の獣害対策について、シカに焦点を当て振り返ってみましょう。
近年鳥獣被害は減少していない
まず、現在の鳥獣による農作物及び森林の被害額に着目してみましょう。
農作物被害額の推移は平成30年度からほとんど変化しておらず、また、森林被害に関しても、令和3年度から減少してはいるものの、令和元年度と比べてもほとんど変わらず、減少幅は少ないと言えます。すなわち、農作物被害額、森林被害発生面積のどちらもあまり変化していないということが分かります。
急激に減少するイノシシ、鳥獣被害の中心はシカへ
引き続き上記グラフについて動物種ごとの被害額に注目してみると、農作物被害の主要な鳥獣であったイノシシ被害額は減る一方、シカの農作物被害額は近年増加傾向にあることが読み取れます。鳥獣被害の主な原因であるシカとイノシシの個体数、捕獲頭数を見てみましょう。
個体数はシカ・イノシシ共に減少していると分かります。イノシシについては、捕獲頭数は大きく変わっていないものの、感染症である豚熱の影響もあり、個体数が急速に減少していることが分かります。一方で、シカの捕獲頭数は増加傾向にあり、個体数も減少傾向にあると分かりますが、イノシシと比べるとその減少幅はかなり少ないと分かります。
具体的に計算してみると、シカの個体数がピークだった平成26年度から令和3年の減少幅は40万頭なので、平成26年度の約15%が減少しています。一方で、イノシシは平成26年度から令和3年の減少幅は60万頭で、平成26年度の約44%が減少していると分かります。
このことから、シカの頭数は捕獲圧上昇から減少してはいるものの、イノシシと比べるとその減少幅はまだ小さく、まだ十分ではないと言えます。シカによる獣害対策を強化すべきであると言えるのではないでしょうか。
なぜシカによる被害は減少しないのか
また、具体的にどのような対策をすべきなのかという点についても考えてみましょう。シカの頭数自体は減少している一方で、農作物被害額自体は変化していないという現状を踏まえると、シカ一頭あたりの農作物被害額が増加していることが分かります。以前からシカによる被害を受けた地域では、少なからず獣害対策を行うとするであろうと考えると、シカの行動圏(生息域)が拡大し、シカ一頭当たりの農作物被害額が増加したのではないかと推測されます。すなわち、シカの生息域の広域化が、シカによる獣害が減少しない一因ではないでしょうか。
拡大するシカの生息域、新たな生息域における対策の担い手不足
実際、以下の図よりシカの生息域を確認してみると、拡大していることが確認できます。
シカの生息域の拡大に伴い、今まで獣害を被ってこなかった地域の方々が、新たに獣害を被っている可能性があります。特にそのような地域では獣害対策の体制・ノウハウが確立していないことから、対策も後手後手にまわり被害を拡大させているのではないでしょうか。
ここまで解説してきたように、現状シカによる被害への対応が急務であり、特にシカの生息域の拡大と対策の担い手が不足等への対策が求められています。では、実際にどのような対策が行われているのか見ていきましょう。
シカ被害対策へ本腰を入れる行政
まず、シカによる被害についてですが、農林水産省は令和5年度の補正予算としてシカ特別対策事業を措置しています。その概要としては、都道府県が主導し市町村と連携してシカ被害の対策を行い、シカの集中捕獲や、生息状況調査等のさまざまな取り組みに対し、予算を使うことができるというものです。また、その目標として、令和10年度までに平成23年度の生息頭数(310万頭)からの半減を挙げています。
対策その①広域捕獲の推進
これまでは"農水省が所管する農地周辺における有害捕獲(図中赤矢印)"と”環境省が所管する奥山での指定管理での捕獲(図中水色矢印)"の2つを中心に捕獲を進めてきましたが、令和4年に成立した改正鳥獣被害特別措置法により、その間をうめる"農水省所管の広域捕獲(図中緑矢印)"が始まりました。
これにより、都道府県が市町村をまたいで繁殖地を特定し、ICT技術を生かして情報を共有することで、効率的な捕獲を目指しています。そして、農林水産省と環境省が連携することで、農地から山奥まで切れ目なく捕獲できるように幅の広い鳥獣被害対策が進められています。
対策その②担い手の育成促進
昭和50年以降急激に免許所持者は大幅に減少し、ここ25年は横ばいといえます。一方、データが確認できる直近10年(H21⇒R1)の年齢別内訳で見ると、50歳以上が158,700人⇒156,100人と微減なのに対し、49歳以下は27,100人⇒58,900人と2倍以上に増えています。(環境省)
獣害対策の担い手となる人材はわずかながら若返りの兆しがみられます。現状、既に免許をもって活動している人向けのセミナーや狩猟免許所持に向けたセミナーは充実している一方、捕獲や獣害対策のノウハウも少ないと思われる新規免許所持者向けのセミナーはまだまだ不足しているように思えます。その結果からか、狩猟免許所持者数と狩猟者登録数にギャップが生まれています。
福岡県では安全技能向上射撃研修会や銃所持許可事前安全講習会の開催、令和6年6月にオープンした兵庫県立総合射撃場ではわな猟の研修に利用可能なわなフィールドが設けられるなど、初心者向けの取り組みも増えつつあります。あわせて高度な専門性や、各市町村の被害防止計画の策定や現場での被害防止対策の実施などに助言をする「農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー」登録制度や、ジビエに適した捕獲方法等の知識を学ぶ研修を実施及び支援する仕組みである「ジビエハンター育成研修制度」を開始するなど、ソフト面での取り組みも増えつつあります。
まとめ
減少傾向にあると思われていた獣害ですが、実際のところ減っていません。特にシカは積極的な捕獲を行っているものの、被害額が減らないばかりか生息域を広げており、今後さらに獣害対策の中心になるものと考えられます。捕獲の担い手については若干の若返りが見られるものの、狩猟登録にまで至らないペーパーハンターが少なくありません。今後は獣害対策の現場の担い手を増やすべく、獣害対策活動への参加定着施策がより求めらるものと思われます。
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