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500m美術館 はじめにロゴス(言葉)ありき

昨年(2018年)に札幌の500m美術館に作品を展示したときのことを、今さら記してみる。

期間 …… 2018年4月26日~6月26日
場所 …… 札幌大通地下ギャラリー
     (札幌の大通公園の地下にある通路です)

http://500m.jp/archive/4289.html

作品名「雪平鍋」

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(……撮影下手)
そして種明かしの写真。

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 公共の通路での展示のため、歩いて見られることを念頭に置いて制作しました。作品の前を通ると、視界の端で文字が分解されていくので、スマホ歩きでもしていない限り、ほとんどの方が「何だ?」という感じで顔を上げて、関心を寄せて下さりました。
 なお、文字の正面に立たないと読めないようにしてあるので、会期中、行きつ戻りつ、離れては近づき、背伸びしては縮んで、鑑賞して下さる方の姿がちらほら。子供まで楽しんでくれていたのが、非常に印象的で嬉しかったです。
 ご観覧の皆様、本当にありがとうございました。

 ついでに、この展示にまつわる旅日記を。

 2018/3/13-14 下見編

 17時前。仕事をしゅたっと定時で上がり、ダッシュで羽田空港で向かう。
 お声かけ頂いた500m美術館の下見をしに、一路札幌へと赴く。いきなりの話だったので、連休など取れるわけもなく、帰りは翌夕という、滞在24時間に満たない弾丸ツアーとあれど、やはり空港は旅の予感に満ち満ちていて楽しい。んが、何かトラブルで離陸が遅れに遅れて、新千歳着は21時半過ぎ。できるだけ、夜、朝、昼と500m美術館のある地下通路の雰囲気を感じ取っておきたかったので、そのまま札幌駅へ。車窓から眺める暗闇に沈んだ雪景色と、列車の音に旅情を催す。
 札幌に着き、そのまま地下通路経由で500m美術館に向かうことも可能だったが、せっかく渡道して外の空気を吸わないなんてつまらないので、端に雪が寄せ集められた道路を少し歩いて、地下へ。実績解除。
 して、うろちょろ歩いてたどり着いた500m美術館。展示スペースの中の明かりは落とされているものの、やや時代を感じる地下通路にはもちろん明かりが灯っているので、展示作品をパシャパシャしつつ、通行する方々の様子を伺う。うん。残念ながら、立ち止まって鑑賞してる人はいない。まぁ、時間が遅いし、いつもの通路だから、そういうこともあるだろうと思いつつも、その急ぎ足を片っ端から止めてみせよう、と胸の内をたぎらせる。「……一匹残らず!」
 さて、深夜の500mの雰囲気はじっくり観察できたので、このままホテルへ直行かと思いきや、札幌というグルメな機会を余すことなく堪能す。とはいえ観光地は鼻が鈍るので、最近買ったタブレットを手にすすきのあたりをウロチョロ。回転寿司だろうかと胃袋に尋ねるも、今一つな反応。ならばと味噌ラーメン屋へ足を運び、焙煎味噌らーめんなるものを食す。が、少々味噌のインパクトが薄いような……。まぁ、そういうこともある。でもきちんと最後までいただきます。一滴残らず! そのまま予約していた川沿いのホテルに向かい就寝。ビジネスホテルって、何だか好きだ。
 翌日、朝7時頃に起き、二条市場の蟹を横目に今度は通勤時間帯の500mの空気を感じ取りに行く。流石に昨夜は人影もまばらだったけれど、ぞろぞろと通勤の皆様。眠さもあって、500m途中に設けられているベンチに座って、ただ無数の足音に揉まれる。やはりというか、立ち止まる人は見当たらない。まぁ、こんだけ混雑してりゃそれもそのはず。観覧する方がいれば、昼過ぎだろうか。
 ホテルに戻り、朝食バイキングに舌鼓を打ちまくる。スープカレーが美味くてお替わりします。牛乳は基本、東京でも北海道のものばっか飲んでいるが、やはり現地で飲むとより美味しい。これは旅情という味付けもされたものだろうか。いずれにせよ満足です。
 さて滞在12時間にも満たずチェックアウトし、道中見かけた北海道神宮頓宮に参拝。お世話になりますと、手を合わせて頭を垂れる。次いで500mを経由してお声かけいただいたギャラリーの方とお会いし、展示のアレコレを伺う。よろしくお願いしますとお別れし、しばし500mのベンチで雑踏に耳を傾ける。昼前のこの時間はたまに足を止めている方がいらっしゃる。展示場所の空気を体感できるのは、もうこのときしかないので、行ったり来たりしたり、ぼうっと佇んだり。うん、坊主頭ながらに後ろ髪を引かれるが、そろそろ次の予定へと向かおう。搬入当日までさらば、札幌。
 突貫工事で構想を練り上げたけれど、展示する作品の中身は決まっている。小説の中身は古民家が出てくる。札幌で展示するなら、札幌の古民家を見ておきたいなと思い、向かったのは新さっぽろ駅の外れにある「北海道開拓の村」。の前に、もちろんグルメを満喫します。というわけで上品なファストフードっぽい感じのチキン屋へ。うーん。残念ながらこちらも薄味に感じてしまった……。唐揚げ丼を頼んだけれど、ハンバーガーのほうが良かったかしらん。ついでに注文してから揚げるため、やや時間がかかり、開拓の村行きのバスを逃してしまう。一本の間隔が長いので、じゃあいつも通り歩いていっちまえと、3kmの道のりに足を踏み出す。雪解け水で路面が覆われていることが多く、靴が水没しないよう気をつけて、進む。3kmなら30分で着くはずと高をくくりながら、グーグル先生に案内を請い、住宅の合間を抜けてたどり着いた「北海道開拓の村」。うん。何か、雪原へと導かれました。冬季閉鎖道路と看板。地図を見ると、この目の前から延びるぶ厚い雪に埋もれた坂道を上っていった先に、所望の村はある。正規ルートはぐるっと回り込まなきゃいけない。迂回すれば再び数km。上れば1kmもない。行ってやらぁ!
 というわけで、雪に深く埋まった坂道を一人行軍する。通行人が見かけたら、何やってんだあの馬鹿、といったとこだろうか。幸い日が差していて、さほど寒さはない。が、もちろん埋まる。脚がずぼずぼ沈む。50cmくらいの積雪だろうか。しかしよく見れば、何やらスキー板らしきものでこの坂道を降りてきた痕跡がある。そこならある程度踏み固められているだろうからと、平に均された跡に足を乗っけては、沈む。が、ちょうど二本のスキー板の間の雪は他よりもやや硬い。お、これなら行けるか、と両腕を広げてバランスを取り、これはまるで鉄骨渡りだなぁと、一人で笑いを堪えながら、ときには足を踏み外して、雪中へと足を突っ込み突っ込み、坂を上り続ける。旅行しにきて何やってんだろ。馬鹿じゃなかろうか。見渡せば誰もいない。ただ黒い樹木と、雪原があるのみ。あぁ。とか思いつつも、やっぱ旅はこうでなくちゃと写真をパシャパシャ。多分、この旅で一番楽しい瞬間でした。
 さて。きっと10分以上かけて、開拓村の駐車場へとたどり着く。さすがにこのへんは除雪されていて、雪原からアスファルトへと移る。ありえない方向から人が現れたので、守衛さんみたいな方がぎょっとしてこっちを見ていました。そしてもちろん足はべちょべちょ。受付でチケットを購入しながら、自分の馬鹿さ加減を自慢する。裏の雪で覆われた道路を上ってきましたとさ。そんなこんなで雪水でしこたま濡れた足を引きずり、広大な開拓村を見て回る。要は北海道開拓当時の建物を移築して、再現した村。古民家もたっぷり。歴史的建造物もどっさり。足はぐっちょり。これ、絶対後で痒くなるやつですわ。
 古い建物を見て回りつつ、茅葺き民家やら米作やら、気になることを管理の方へ質問。16時くらいまで見て回る。これで取材は充分。新千歳空港へと向かいます。今度はバスで村を下り、駅から空港に直行。村の誰もいないスペースで靴下を交換したけれど、靴が濡れているので不快指数は変わらず。空港でも靴下をティッシュでぶっ叩いて水気を取り、何とか我慢できる程度に抑える。さて、やっぱり北海道グルメです。
 豚丼にチーズを乗っけて、食らいやがります。うまい。というわけで非常に短い時間ながらも、北海道をたっぷり楽しみ、羽田への帰路につきました。

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 2018/4/24-26 搬入編(といっても旅のこと中心)


 発送数日前に作品の一枚を割っていい歳して泣きそうになったり、ピラミッドの奴隷のように17kgの大きなアクリル板を一人背負って少し離れた郵便局に向かったりしたのも、すべてこの日のため。作品搬入のため! 今回は休みもちゃんと取得して、おまけにLCCも利用して、朝の便で成田から出発だっ! 楽しむぞ、札幌!
 機内ではおにぎりをパクつき、展示のサイズをミリ単位で計算しながら札幌についたのは10時過ぎ。今度はいきなり地下通路から500mに向かいます。スタッフの方の手伝いも得つつ、まずは木片を天井の色と同様に塗り塗り。皆さんと一緒に昼飯を食べに行って、ランチのコーヒーはつけないよう注文したら、500mスタッフの方から「じゃあ、普段何を飲んでるんですか?」と問われ「……水」と答えたのは面白かった。自分のことだけど。まぁでも旅に出たら、大体その土地の天然水を飲んでます。
 午後は最寄りの郵便局に送りつけていた17kgのアクリル板を回収。今度はスタッフの方に手伝っていただいたので運搬が楽でした。初日は天井にフックを取りつけることに終始。公の通路なので、搬入には時間制限があり、大体17時撤収。キノトヤで楽しみにしていたチーズタルトを購入し、中島公園方面のホテルへてくてく。確か二連泊で朝食、大浴場ついて7000円しなかった。安い! ただ花粉のない北海道のはずなのに、部屋に入った途端くしゃみを連発。部屋はキレイなのに何でだろ。ひとまずチーズタルトを味わい(うまいぞ!)、晩飯へと向かう。来るときに見かけた、札幌餃子製造所に心が惹かれている。そしてこれが大当たり。ぷりぷりした大きな餃子で、旅情もあるだろうが今まで食べた餃子の中で一番美味かったよ。肉汁たまらん。搬入の本番は明日なので、早々に眠りに就く。
 翌朝。うっすらと靄のかかった中島公園をジョギングする。流石に寒いが、走ってりゃ体が温まってくる。池のまわりをぐるぐると何周かする。途中見かけた、弥彦神社と、札幌護国神社にも詣でる。護国神社と言えば、戦争で亡くなられた方を祀った神社。深く額ずく。というか護国神社は物凄く厳かな雰囲気。びしーっと参道が社殿まで延び、左右には整然と砂利が敷き詰められ、外周はぐるりと囲まれていて、早朝ということもあって、人は見当たらず……。神社に対しては変な形容だろうけれど、凄まじくアートな空間だった。非日常と言えばいいんだろうか。そうしてジョギング再開。というか、足の裏痛めてるのに、ようやるよ。怪我が長引いても知らないよ(これを書いてる2019年11月も煩ってます)。でもやはり、旅先では観光地としての顔ではなく、早朝という無防備な地元の空気を感じたいので、走りたいのです。だったら走らず散歩にすりゃいいのに、というのは今思いついた。
 さて、朝食バイキングで腹を膨らませ、二日目の搬入。アクリル板を吊して吊して吊しまくります。微調整がめちゃくちゃ大変。数mmズレただけで、作品になりません。でも、出来上がった部分から通行の方々が見てくれて、わざわざ足を止めて、すごいねこれ、面白い、と言ってもらえ、心底やる気に繋がります。頑張ろう。昼飯は、500mスタッフの方に札幌で美味いパン屋(コロンというお店でした)を尋ね、買い求めてムシャムシャムシャ。東京でもパンはよく食べてるが、美味しかった! 午後も引き続き設営設営。たまに外国人観光客の方も通って、足を止めてくれる。流石に全員は難しいけれど、それでも目論見通りになりつつある。一匹残らず……! 歩いて見られることを念頭に置いた作品なので(作品の前を通ると、視界の端で文字が分解されていくので、スマホでも見てない限り、大体気づいてくれます)、東京で試行錯誤をしているときは不安ばかりだったが、何とかうまくいきそうで嬉しい。
 この日はアクリル板残り一枚で終了。まぁ、搬入最終日まで読ませませんよという意地悪な気持ちもあったけれど、笑。そんなこんなで今日は大分見通しが立ったので、札幌の地酒と洒落込みましょうか。旅に出るとその土地の水だけでなく、日本酒も飲みます。地の物を食べて飲むのが醍醐味です。そうしてタイミング良く500mのディレクターさんに、何やら広告関係の飲み会があると誘われ、右も左も分からぬまま乗り込むことに。うん。下ネタのオンパレードだった。とはいえ、まぁ、こちとら男性なので楽しめないことはないけれど。地酒の千歳鶴もしっとりと美味しい。同年代の方もいらしたので、あれこれ話しまくってました。名刺を遊戯王みたいに机の上に並べてました。串揚げ、もう少し食べておけば良かった。
 帰り道は酔い心地でホテルへと一人赴く。ガールズバーの声かけを横耳に、すすきのの歓楽街を抜け、そういえば昨夜このへんで美味そうな肉まん屋が……、と通りの角っちょに目当ての店を発見。いい気分だし、食べまそう。とお買い上げ。そうして受け取り、おむすびころりん、袋の持った部分が悪く、中身が地面に転落。早々に食物としての天寿を全うする。おおぅ。急いで拾い上げるも、砂利まみれ。肉まんの砂利まぶし。せっかく買ったのに……。いや、洗えば食えるはずと気を取り直し、そのままホテルに持ち帰り、洗面台で湯加減を調節し、砂利で黒ずんだ包皮を湯ですすぎ、イケそうなところを一口。うん、じゃり。戻す。そうして顔を上げて、鏡の中の自分と目が合い、高笑い。何やってんだ、こいつ。食物を粗末にしたようで気が咎めるが、ビニール袋に包んでしっかり結んで、ごみ箱にサヨウナラ。はぁ。
 三日目、最終日。今日はぐっすり寝て、チェックアウト。搬入も順調に超微調整を終え、昼には完成。この日はテレビ塔地下のトイレを利用するとき必ず前を通っていた蕎麦屋へ。いつもサラリーマンの方々で満席で気になってました。値段は安く、量は多く。なかなかでした。ごちそうさま。さてさて。あとはもうやることはない。本当は三日目はまるっと空けて観光でもしたかったが、帰りは17時の便で観光するには微妙だ。でも札幌にいる間、どうしても寄っておきたい古本屋があり(実は予めネットで調べておいたのだけれど、この古書店に欲しい資料が置いてあって、昨日飲みの前に時間があったので、訪ねたところ、今その本は倉庫にあると言われ、明日来てくれれば用意できますと言われていた)、時間もあまりないがそこまでダッシュで向かうことに。店は北海道大学の前にあり、およそ2.5km。走れば間に合う。というわけで身軽な格好で財布を携え、札幌の地下通路を迷惑にならぬよう疾走。こうして当時執筆中の小説に必要な資料を、割と良品でゲットできました。ネット注文だと送料もかかるから、札幌滞在中に行けて良かった。そのことを500mスタッフの方に話したら「札幌来て、古本屋行くっていのも珍しいですね」と言われ苦笑。まさしく。
 さて。これで役目も目的も果たした。皆々様に二ヶ月の管理をお願いし(天井からテグスで吊されたアクリル板が落ちるのではないかと不安でした。大丈夫だったけれど)、最後にありがとうございましたと握手を交わし(今日初めて会うスタッフさんもいたけれど、笑)、さようなら。皆さんと飲みたかった。ジンギスカンを食べたかった。まぁ、それはいずれの機会に。
 とはいえ旅はまだ終わらず、新千歳空港で500mスタッフさんからオススメされた、キノトヤのソフトクリームを平らげ(美味しい!)、多幸感に包まれたまま東京へと戻ります。何や慌ただしく、ロクに観光もできなかったけれど、物凄く充実した旅でした。
 というか下見編も含めて、一年半前なのによくここまで覚えてるな、俺。

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