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2024年5月 長野湯治旅2

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 早めのお昼。電車の時間もあるので、参道に戻ってるほどの余裕はない。というわけであらかじめ調べておきました大衆食堂。参道から少し外れた位置に提げられたのれん。がららと入店、1名です。先客が1組。とりあえずテーブル席に着く。カウンターの窓から厨房を見れば、おばあちゃんが一人。「ちょっとお待ち下さいね」と声がかかる。カウンターの上に掲げられたメニュー一覧。もつ煮定食は良さそうだ。ただ時間があまりないから、トータル20分くらいで食べ終えたい。のに、先客にラーメンを運んだと思ったら、お次は餃子に取りかかる。少しやきもき。先客への配膳を終えてから、こちらに水を出してくださる。「ごめんなさい」と枕詞を添えあまり時間がない旨をお伝えし、ラーメンは10分くらいで出ますか? と投げかけ、すぐ出ますよとのことだったので、味噌ラーメンを注文。本当に5分くらいで出てくる。ありがたや。ただコップの底に茶褐色の(多分外側だろうけれど)汚れがついていたり、何だかメンマが酸っぱかったりと、ちょっと残念な印象だったかなぁ……チャーシューは柔らかく味が染みてて美味かったけれど。ともあれごちそうさまでした。とっても感じのいいおばあちゃんのお店でした。
 さて、雨脚は少し弱まってきた。そのまま緩やかな坂を下って、地下鉄みたいな善光寺下駅に10分の余裕を持って到着。かなり年季の入った、けれど明るいイラストで彩られた地下通路の先に改札。タッチパネルな券売機で切符を買い求める。支払い方法は交通系ICを選択。ピピッと切符を購入。……んん? 「駅員が不在の場合は改札を省略しております」とのことで、そのまま入場。さらに階段を降りていけば、最近の無限ループ系ゲームに出てきそうな古びたでもよく掃除のされている綺麗なホーム。少し待てば、向こうの暗闇から轟音。何だか少し怖かったわ。やってきた長野電鉄の列車に乗り込みます。
 さて車内。悠々と座れるくらいに空いてます。中吊り広告に目を向ければ、地酒トレイン。何やら電車内で沿線酒蔵の地酒が飲めるイベントのようで。これはなかなか面白いかもなぁ。小人料金の設定もあったけれど、子供はどう過ごすんだろ。そんなわけでしばしガタンゴトンと揺られて、三年前に降りた須坂を過ぎ、小布施に到着。おぶせ。素敵な響きの町名です。切符を駅員さんに渡し駅舎を出れば、ざあざあと。雨の勢い、戻ってました。まぁいいや。観光案内所で地図をもらい、お店の集まる地区へと向かいます。まず向かったのは、三年前にも寄った竹風堂。超美味だった栗おこわを買い求め──と、店先に来て踵を巡らしました。小布施で栗といえば、その町の名を冠した小布施堂もあるではないか。竹風堂をまた食べたい気もするが、小布施堂も試してみよう。てなわけで、栗三つの屋号紋がでっかく染め付けられた暖簾を潜る。壁面の明かりまで「栗」の字だったりと、栗づくしのお店。伺えば、注文を受けてから炊きあげる本格派。15分くらいかかる、とのことでお会計を先にしておいて、ちょっと今夜の酒を求めて彷徨う。小布施には酒蔵が二つあり、片っぽは気軽に飲むには高級すぎたので、もう片方の松葉屋本店へ。店内をうろついていたら、100円で二種試飲できます、とお声がけいただき、まぁ買うことは決まってるから今ここで試飲しなくてもいいんだけれど、旅の道中に飲むというのが既に面白いので、飲みませう呑みませう。北信流(ほくしんりゅう)という酒の名は同じなのだけれど、使ってる米や手法の違いで、いくつもの北信流があるようで。まず飲ませてもらったのは、昨年全国新酒鑑評会で金賞を得た純米大吟醸。いや、これ、美味かった。とっても上品な甘さ。もうこの美味しさだけが舌に残ってて、このあと飲んだ酒の味がかすむほど。が、買い求めたのは長野の酒米で醸した純米吟醸の生酒です。手頃なお値段で。
 さぁちょっと酔い心地で小布施堂に戻ればまだできてません。このあと宿への送迎の待ち合わせがあるから、これまた時間にあまり猶予はないのだけれど……何だかんだで予定の時間から10分近くオーバーされちまいましたね。楽しくなってまいりました。
 現在13時30分。このあとの予定。徒歩15分ほどの距離にある長野の地元スーパーに寄って今晩のおつまみやらお菓子を買って、さらに15分歩いて14時に送迎の待ち合わせ場所へ。本来なら買い物の余裕などないのだけれど、自分の健脚っぷりなら徒歩10分、買い物10分、徒歩10分で行けると踏んだ。というわけで脇目も振らず、傘を手にせかせかと歩く。というか以前も書いたかもだけれど、小布施の中心街は歩道と車道の間隔が狭いので、落ち着いて街歩きできないのが少し残念だなぁ、と。で、見えてきたスーパーツルヤ。長野県民にはお馴染みの(らしい)スーパーです。予定通り10分で到着。広々として明るい店内。旅先のスーパーに寄ると必ずチェックしていた牛乳、は買いません。三年前の旅でオブセ牛乳を工場で飲ませてもらったから。狙うは納豆。1パックだけの川中島納豆をカゴに入れる。あとはお菓子売り場へ。ツルヤ限定商品ということで、ドライフルーツやらをいくつか買う。そんでもって東京じゃ見たこともない牛乳せんべいも。酒のつまみの割にはなかなか健康的だから、もうちょっと油っぽいスナックでもと思ったが、時間がないので即会計。傘の柄にビニール袋をぶら下げてツルヤを出る。残り10分。雨の中、ひたすら歩く。何かサンダルに当たる指が痛くなってきた。美味しそうな地元のパン屋さんがあった。でも寄る余裕はなし。目的のコンビニが見えてきた。約束の14時ちょうど。無事、送迎車に乗り込む。車内で一息ついて足を見れば、うわっ血が出てる。雨の中、結構必死で歩いたからねぇ……。
 そんなわけで三年ぶりの女将さんの運転で、三年ぶりの山田温泉へ送っていただく。山道に入ると霧が濃く、見通しが利かない。自分が同じとこに泊まりに行くのはとても珍しいんです、なんてことも話す。山田温泉。長野の山中にある旅館が数軒立ち並んだ、小さな温泉郷です。三年前にここで湯治旅をしたときにとっても寛げたので、また同じことをしたいなぁと思ったのでした。そんなわけで旅館に到着。早速、道中疲れた体を湯に沈めます。大雨の中、たくさん歩きました。あとは何を思い煩うこともなく、温泉三昧です。というわけで買ってきた栗おこわを夕餉にいただく。三年前に食べた竹風堂のおこわは栗の甘みがしっかりと出ていたけれど……何だろう、時季に寄るものだろうか。そこまで強い甘みはなく。加えて付け合わせの漬け物の中に、黒く丸い何かの実が入っていて、画像検索で何の実か調べようとしたら、同様の画像ということで小虫の写真が出てきて、調べるんじゃなかったと。食べて見ればぴりりとした刺激で、あぁこれは山椒の実であったか。まぁ何にせよ美味しくいただきました。
 外は変わらず雨。持ってきたタブレットでゲームをしたり、買ってきた酒やお菓子を味わいながら(牛乳せんべい美味い!)、友達とネット麻雀に興じる。そう、こんな感じの緩い過ごし方でいいのよ。そんでもってまた貸切状態の湯へ。昼間は適温だったけれど……あっつ! 山田温泉、三年前もあつ湯だったので、どうしたんだろと思ってたが、熱湯は健在で。水で埋めながら温泉を堪能。あとはもう眠るばかりさ。

2日目

 朝8時に朝食。三年前もいただいた茄子田楽。っと、冷蔵庫から昨日買った納豆を取り出す。1パック90gの大粒。ご飯に落とし頬張れば、即あぁこれは美味い。まろやかな豆の味がたまりません。今まで食べた納豆で一番かも。感動しちまいました。むろん、その他の料理も美味しくいただきました。で、朝風呂です。大きな窓の外、今日はくっきりと晴れている。そうでなくては。
 10時、バッグの底に詰めてきたランニングシューズを履き、温泉郷の観光案内所でEバイク(坂道にも強い電動自転車)を借りる。これも三年前と同様。前回は裏手の山の中腹をぐるっと一周してきたけれど、今回は別の山道を行ってみようかと。いうわけで、まずは山を下っていく。したら、まだまだ空気が冷え込んでて寒いっていう。道中、子安社にて手を合わせる。そんでもって「万座温泉へは通り抜けできません」と工事中の看板が掲げられた県道を進みます。傾斜がつき、道路の左半分が濡れている。陽を受けながら流れてくる水。その源に向かえば、昨日の大雨で側溝に木屑が大量に詰まって、排水が機能しなくなっている箇所が。路面が濡れてるとスリップの原因になる、山側がぬかるむと土砂崩れの遠因になる……自転車を停めて、側溝を比較的丈夫な枝でほじくっていきます。まぁ思い浮かべた理由はあくまで建前で、要するに暇だったのです。そんなわけで側溝に詰まった木屑と何分か格闘して、少なくとも道路側に水が溢れてこないようにはしときました。途中、トラックで過ぎてった人からすれば、何やってんだこいつ? だったでしょう。治水である。最後に水の流れに手を浸しては汚れを洗い、再び山道を駆けていく。したら、またもや同じような箇所があったっていうね。さすがにもう相手にはしません。日陰は冷えるので、日なたで時折あったかチャージをしつつ、順調に高度を重ねていきます。Eバイクの後押しがあるとはいえ、坂道はやはり堪えます。これ明日、太腿が筋肉痛になるだろうなぁ、と思いながら、ときおり山々の景色を眺めては休憩し、山の上へ。そうして小さなお社が道路の脇に。山神様。木の鳥居に、大きな岩の上の小さな石の社。とっても好みな感じです。もちろん手を合わせます。やがて辿り着いた北信五岳展望台、は標高1752m。子安社の標高が682mだから、1km以上登ってきたわけです。おかげでバッテリー残量25%。これ以上は帰りが危険です。おまけにここから望める北信五岳を図で明示した看板は雪の重みだろうか、脚が折れて倒れていました。車は通りません。雲が出ていて、そこまで展望は良くないけれど、しばしこの平場で休みます。
 12時半。さて、お昼を食べに村へと下りようか。
続→

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