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IPO企業 目論見書の読み方(2022年版)

目論見書分析noteを書き続けて丸2年になりました。おかげさまで多くの方に読んでいただき、30記事で累計ビュー数が4万を超えました。本当にありがとうございます。

今回のnoteは「目論見書をどのように読んだらよいのか」を、わかりやすく解説します。新規上場企業の投資に興味がある方だけでなく、スタートアップに関わる方が目論見書を読めるようになって、日々のお仕事のプラスになれば嬉しいです。


はじめに

目論見書について馴染みのない方もいらっしゃると思いますので、簡単に解説します。
目論見書とは「有価証券の募集あるいは売出しにあたって、その取得の申込を勧誘する際等に投資家に交付する文書」(出所:証券用語解説集)であり、新規上場企業が投資家に対して業績・事業・リスクなどを解説した文書です。目論見書を見れば、過去の売上・利益、事業内容・サービス内容、対処すべき課題、そして、役員略歴、株主、従業員数など投資家にとって参考になる情報が記載されてます。

目論見書には、株式投資に興味がある方だけでなく、スタートアップ企業の経営者、スタートアップに関わる方、企業分析に興味がある方にも、非常に有益な情報が詰まっています。
新規上場企業は、目論見書を作成するために上場前から2年程度の時間を費やし、最初は、証券会社などから書面のフォーマットをもらい、記載できるところから埋めていきつつ、事業内容の記載やリスク情報などは、何度も何度も修正を重ねて、一字一句間違いないように磨き上げていきます。

その内容は、事業内容から中期事業方針、ベンチャーキャピタルからの資金調達、ストックオプションの条件、重要な契約の記載など、企業がどのような経営ヒストリーを経て、新規上場承認まで辿り着くことができたのかがわかる重要な情報がたくさん書かれています。
個人的には、スタートアップ経営に携わるすべての方に、目論見書はぜひ読んでもらいたいものであると考えてます。

ただ、目論見書のフォーマットは文字が多くて読みづらく、どこに何が書いてあるのか、わかりづらい文書です。

私がこの目論見書分析noteを書いている理由は、「目論見書に書かれている情報をスタートアップ経営に生かして欲しい」です。その想いで、多くの方に、目論見書分析noteを書き続けていきたいと思ってます。

それではここから、目論見書の読み方を解説していきます。


目論見書はどこにあるのか?

・引受証券会社のホームページ
・EDINET

目論見書は、新規上場企業の販売を行う証券会社のホームページで閲覧することができます。また、EDINETでもほぼ同様の内容(有価証券届出書(新規上場時))を確認することができます。
SBI証券がかなり多くの新規上場企業の引受・販売に関与しているため、まずは、SBI証券のIPO・POのページ(新規上場株式 公募増資・売出ブックビルディング情報)をご覧ください。
例えば、2022年4月28日に上場承認されたANYCOLORの目論見書は、SBI証券のIPO・POページの中にあります。

出所:SBI証券ホームページより抜粋

実際の目論見書ファイルはこちらになります。


ここから、目論見書のどこを見れば欲しい情報がわかるのか解説していきます。

※ページ数は、目論見書のヘッダーに書かれているページ数のことを指します。PDFファイル自体のページではありませんのでご留意ください。


時価総額・調達資金

ANYCOLORの時価総額は、ストックオプションなど潜在株をすべて含めて、約488億円。新規上場時の調達資金は7,450万円になります。

時価総額の計算方法は、株価×発行済株式数 です。
目論見書に記載されている株価は、想定発行価格になります。上場承認日の時点では株価、いわゆる公募価格は決定しておらず、あくまで想定の発行価格が目論見書に記載されています。

P2「2募集の方法」に、想定発行価格(1,490円)の記載があります。

目論見書 P2


P149〜P151「第3【株主の状況】」に、株主の氏名、所有株式数(潜在株式数)、持株比率を確認することができます。時価総額を計算するために、まずは発行済株式数を見てみましょう。P151の計、32,548,935株が潜在株を含めた発行済株式数になります。

目論見書 P151

よって、想定発行価格×潜在込発行済株式数=時価総額
すなわち、1,490円×32,548,935株=約488億円

調達資金は、P4にある「5【新規発行による手取金の使途】」に記載されている金額となります。調達金額を確認できるのと同時に、資金使途について詳細が記載されています。
新規上場時の手取り金を何に投資し、将来の事業成長に繋げるのか、ここはコーポレートミッションや事業方針にも関わる重要な事項であり、目論見書の中でも必読コンテンツの一つです。

目論見書P4

・手取金の使途
事業拡大のための優秀な人材の採用・育成による体制強化が必要と認識しており、採用費及び人 件費として、2023年4月期に全額を充当する予定であります。


主要な経営指標の推移・従業員数

ANYCOLORの2021年4月期売上高は7,636百万円、経常利益は1,451百万円
従業員数は156人で臨時雇用者数は35人

過去の売上および利益の推移は、投資家も経営者も大きな関心事のひとつです。経営指標の推移は、P12の「1【主要な経営指標等の推移】」に記載があります。

目論見書 P12

また、目論見書のカラーページ(冒頭部分)は、企業が比較的自由なフォーマットで記載できるカラーページがあります。
・ANYCOLORがVTuber関連のサービスを提供していること
・業績推移のグラフ
を確認することができます。

目論見書カラーページより

また、直近の従業員数や平均給与はP20「5【従業員の状況】」に記載があり、必ず見ておくべき情報です。従業員の状況は、上場承認月の前月末あたりの数値になります。
ANYCOLORでいえば2022年3月末時点の従業員数がわかります。11ヶ月間で60人の増員があったことを見ると、2020年4月末から2021年4月末の12ヶ月間でたった6人しか増員してないのに、直近11ヶ月で60人増えているのを見ると、今期採用を加速化していることが容易にわかります。

直近  :2022年3月末 従業員数216人(前期末比+60人)
前期末 :2021年4月末 従業員数156人(前期末比+6人)
前々期末:2021年4月末 従業員数150人

目論見書 P20


業績予想

業績予想は目論見書に記載はありません。
業績予想は企業のホームページに掲載されていることがあります
TOKYO IPOやTrader's webなどIPOメディアにはリリースまたは業績予想数値の掲載があります

ANYCOLORの業績予想はTOKYO IPO内の開示資料欄で確認することができます。2022年4月期の売上高、営業利益、経常利益などの予想に加えて、業績予想の前提となる事業、サービスの見通しの記載があります。短期的な予想数値や、事業のトレンドを理解するのに非常に有益な情報です。
目論見書と合わせて、ぜひ見ておきたい内容です。

当社の 2022 年4月期の業績は、当期の期首から 2022 年 1 月末日までの実績 をもとに 2022 年2月以降当期期末までの期間について以下の前提条件での見通しを反映して作成し、 売上高 13,259 百万円(前期比 73.6%増)、営業利益 3,785 百万円(前期比 160.7%増)、経常利益 3,753 百万円(前期比 158.6%増)当期純利益 2,497 百万円(前期比 166.4%増)を見込んでおります。

出所:2022 年4月期の業績予想について


ビジネスモデル

BtoCは、動画配信による視聴者からの課金収入およびチケット販売等
BtoBは、企業のプロモーション支援やイベント制作費等

ビジネスモデルの全体像を示したものが「事業系統図」です。売上先だけでなく仕入先も記載されていること、何に対する対価として収益を得ているのか、一方で何を仕入れて費用を払っているのか、全体像を掴むことができるビジネスモデル図となっています。

事業系統図

目論見書 P19

また、ビジネスモデルをより深く理解したい場合は、上場日の朝8:00頃に適時開示される「事業計画及び成長可能性に関する事項」(成長可能性資料)をチェックしましょう。
成長可能性資料は、事業内容、ビジネスモデル、成長性に関する説明資料で、利用用途としては、上場前に機関投資家向けロードショーで利用したり、上場後の決算説明会のベースとなる資料でもあります。文字だらけの目論見書を見ても理解できないことが、成長可能性資料を見れば、非常にわかりやすく説明されているはずです。
これは、本当に企業により自由に作成できる資料なので、企業のIRに対するスタンスが出るのでぜひチェックしてください。
参考:4月28日にグロース市場に上場したツイキャスを運営する株式会社モイの事業計画及び成長可能性に関する事項


市場規模・TAM

VTuber市場の成長可能性として、
・既存のYoutube配信やアニメ配信市場930億円
・国内アニメ市場のグッズ販売市場5,819億円
・日本の動画広告市場4,209億円
海外展開によるさらなる成長として、
・日本アニメの海外配信市場1.2兆円

目論見書 P24

市場規模やTAM(Total Addressable Market)は、企業がどの市場を狙っているのか、その規模はどれくらい大きいのか。投資家の大きな関心事のひとつでもあります。
企業からすると、どれだけ大きいマーケットを狙っているのか、投資家に対する魅力づけをするために重要です。小さいマーケットを狙っていると成長可能性を感じさせられず、あまりに巨大すぎるマーケットを狙っても実現可能性が乏しい、または、売上成長に関連性が低い市場規模を示している、と受け取られることもあります。
SaaS企業ですと、freeeの成長可能性資料での「TAM」「開拓余地」の説明が非常にわかりやすいので参考に記載しておきます。

freee:2021年12月期「事業計画及び成長可能性に関する説明資料」P19
freee:2021年12月期「事業計画及び成長可能性に関する説明資料」P20


KPI

売上高の拡大には、にじさんじVTuber数、YouTube再生時間、ANYCOLOR ID数の拡大が必要であると考えております。

目論見書 P25

KPIは、目論見書の中では「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」と表現されており、市場規模やTAMと並んで最も見るべきコンテンツの一つです。
なお、KPIの定め方は各社が自由に定めることができるため、最も大きい粒度で定めている企業は「売上成長率」や「営業利益率」であったりしますし、一方で、SaaS企業などで細かく定めている場合は、継続率・ARPU・チャーンレート・LTVなどです。
上場後の成長率や業績達成可能性を判断したい場合、以下の2点に注目しましょう。
・目論見書で、重要なKPIを確認する
・業績予想の開示資料で、重要なKPIの進捗・見込みを確認する


株主の状況

筆頭株主は代表取締役CEO田野氏。持株比率43%
業務提携先であるSMEが第5位株主
PKSHAの代表でありエンジェル投資家の上野山氏が株主

目論見書 P151

おわりに

今回のnoteを活用いただくことで、新規上場企業の時価総額、業績、ビジネスモデルなど概要を理解するために目論見書が利用できることがご理解頂けたかと思います。
目論見書をさらに深堀して読み込んでいくと、役員選任の時期、役員報酬、取引先との関係性、資本政策など、重要なコーポレートアクションをいつのタイミングでどのように考えて実行しているのか推測できることもあります。下記リンク先の記事一覧から、気になる企業の目論見書分析noteを読んでみてください。

これからも、目論見書からの分析記事を書いていきますので、引き続き宜しくお願い致します!