かつて私が家事が得意だから主婦になったわけじゃないように、夫にだって大した理由なんかない。
先日夫が会社を辞めた。
「主夫になる」
夫からこの言葉を聞いたとき、最近しりとりがブームの娘のおかげですっかり「しりとり脳」になっていた私の頭にまっ先に浮かんだのは、
「フランス」だった。
主夫→しゅ「ふ」→フランス
という流れだ。
そんなことはどうでもいいとして、夫が退職した話をすると
「それはめちゃくちゃ大変ですね…」
と言葉が見つからない顔をされたり、
「会社員を辞めるなんて損しちゃうよ、もったいないよ」
と心配されたりもする。
私の両親や義両親を含め、夫の精神状態を心配してくれる人も現れた。
そこではじめて、
コレはめちゃくちゃ大変なことで、
損することで、
精神状態をも心配されるようなことなのか!とハッとした私は、
大変な理由や損する理由を考えてみたが、どんなに考えても、調べてみても、そんな理由は見当たらなかった。
夫の精神状態はというと、肌ツヤなんか私よりもよく、童謡をR&B調にアレンジして鼻歌を奏でながら、息子のホカホカのオムツを換えている。
念のため「何か悩んでいることある?」と聞いてみたところ
「あるよ。直ちゃんの靴下が布団の中からでてくることとか」
「あと、直ちゃんのカバンに蓋がないメンソレータムが入っていることもちょっと嫌なんだよね…」
と悪そうに返してきた。
元気そうだ。
もろもろ、大丈夫そうだ。
私の精神状態についても心配いただくことがあるが、どうか安心してほしい。
私の精神状態については、物心ついた時から安定していた時期などただの一度もない。
みんな色んな心配をしてくれているんだろう。
でも、生活に必要なお金を稼ぎ、払わなきゃいけないものを払い、これからも派手に喧嘩したり仲直りしたりして生きていく、それだけだな、と思うのだ。
しかしあまりにも楽観的過ぎて、
子どものことは考えているのか、と心配されることもしばしば。
叱られるかもしれないが、子どものことは、めいっぱい悩んだり考えたりしたところでどうにかなることでもないと思っている。
(実際に、うちの両親はめいっぱい悩み考えてくれたけど、私はこんな風になっている。)
食費を圧迫しすぎない程度にいっぱいごはんを食べて、風邪をひかずに達者に過ごしてほしい。
心配しているところはそういう部分じゃないと思うのだが、
いずれにしても、それなりに自分や、
我々夫婦のわずかに残っている責任感を信じている。
何とかなるもんだと思っているし、何とかならなそうな場合は、何とかするのだ、と決めるだけだなと思うのだ。
こりゃどう考えてもままならない、と切羽詰まる前に、進む道を変更する心づもりは常にある。
それでもわずかに残っている責任感を落としてしまわぬように気を付けながら、
全ては心の決めたままに、肩の力を抜いて選択していきたい。
(余談だが布施明のmy wayを初めて聞いたときはそりゃもう痺れた。)
子どもが生まれた時、この子のためだけに生きるということはしないと自分に言い聞かせた。この子にも、私を念頭においた上での人生の選択はさせないと決めたのだ。
一方で
「旦那さんが主夫になったら色々助かるね」
「旦那さんは家事育児が得意なんだね」
という言葉もいただく。
そうか、助かるのか!と夫が会社員だった頃を思い起こしてみた。
返事をしただかしてないだか、
相手に聞こえていなければ返事とは言わないだかで、
離婚に発展しそうなほどの大喧嘩になったことを思い出す。
涙ながらに振り絞った私の渾身の一言は
「あんたなんか、家事と育児と仕事しかしていないくせに…!」
だった。
そのあと、なんかごめんと謝った。
これからも諸々よろしくと伝えた。
その結果、その一年後に主夫になった夫。
主夫になったからといって特に大きな変化はない。
また、私がかつて家事育児が得意だから主婦になったわけではないように、
夫もまた家事育児が得意だから主夫になったわけではない。
夫にいたっては、一人暮らし歴もなく、結婚するまで料理や掃除洗濯もしたことはない。
それでも気づけば夫は主夫だった。
(いや、正確には私の家事ストライキがきっかけだが、気づいたら主夫だったと言う方がかっこいいのでそうさせてもらう。)
会社員を辞めてからの主夫生活はというと、
料理は特別上手というわけではないけれど作ってくれて嬉しいし、
布団の中に靴下は埋まらなくなったし、
探し物もすぐに出てくるし、
カバンの中のメンソレータムの蓋は常にしまっているようになった。
なかなか快適だ。
そして先日娘はキッチンに立つ夫の絵を描いた。
その横に、スマホらしきものを片手にソファーに寝そべる私の姿もあった。
「お母さんはスマホで仕事をしているのかな?」
と聞いたら
「違うよ、仕事と言いながらマンガを読んでるんだよ」
と返ってきた。
欲張りたいけど、欲張らない。
お金も欲しいし、美貌も欲しいし、
子どもにはあまりわがまま言わないでほしいし、
もっとお酒が安ければいいのにとも思うけど、
毎日がそれなりに面白いからいいと思う。
会社員時代も、フリーランスになってからも
夫が主夫になってからも、そんな欲望は変わらない。
喧嘩もするし、時に離婚したいとも思うし、
マンガを読んでトゥクン…と胸が高鳴る時もあるし、
子どもに理不尽な意地悪をしてしまうこともあるし、
お風呂に入ることが面倒な時もあるし、
高須クリニックで若返り術を調べたりすることもあるし、
「あなたもコレ一つで年収一億円になれる!」という広告を
クリックしそうになることも多々ある。
子どものころから、あーあ、面白いことないかな。と思いながら生きてきた。
そして今もそう思って生きているし、
そこそこ面白いことが起こっているとも思う。
この4月からは、大枚はたいて1年間芸大に行くことにした。
自分で受験したくせに、受かったら受かったでお金を出し渋っている自分に気付いたりもして、そんな相変わらずな自分にようやく慣れてきたところだ。
何のために?何がしたいの?
そう聞かれることも多いが、全員を納得させるちゃんとした理由なんて用意していない。
それでも、一つ一つに
私を納得させる理由がちゃんとある。
長々とごちゃごちゃ書いたが、
「楽しみ&トホホ」
これが私の毎日だ。
そんな毎日を気ままにつづっていきたい。
最後に、夫が主夫になった理由だが、
聞いて驚いて欲しい。
特にない。
特にな「い」→い…犬。
おわり。
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