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ショートショート「玉砕の準備ばんたん青嵐」

夏祭りの夜。
私、彼に告白します......!

「......おーちゃん、やっぱり私、無理かもしれない」
「ひよんな。バカ。今までの努力を無にする気か」

よろよろの私に、おーちゃんが檄を飛ばす。
一週間かけた告白計画。
まずは長かった髪をバッサリ切って、浴衣を買って、朝と夜にパックをして。
そして迎えた決戦の日。
わがままな私は「ぎりぎりまで一緒にいて」と頼みこみ、二人で道後の夏祭り会場を歩いている。

「いいか。俺様のレクチャーのおかげで、お前の女レベルは過去最高に上がっている。自信を持て。落とせない男などいないと思え」

おーちゃんは真剣そのものだ。
恋の成就を心の底から応援してくれている。
口は悪いけど実は優しい、唯一無二の幼馴染み。
ふいに涙がこぼれそうになって、私は面倒くさい女になる。

「落とせない男なんて、いっぱいいるよ」

励ましてくれてるのにほんとごめんね。
ドキドキしすぎて、優しい君についうざ絡みしたくなった。

盆踊りの音楽や人いきれ。
呼び込みの声。
子供たちの笑い声。
夏っぽい音の数々が胸の鼓動に掻き消される。
情けなくてちっぽけな私。
まるで瀕死のセミになったよう。

「ったく」

おーちゃんは、ため息を一つ落とした後キョロキョロと辺りを見回し、小物屋にはいると、何かを手に戻ってきた。
それは、白い花模様の髪飾り。
真剣な顔で私の髪につけた後、
「お守りだ。これで絶対に大丈夫」
見慣れた笑顔でにっかと笑う。
ああ。どうしよう。
ますます胸が苦しいよ。
鼻の奥がツンとする。

ふと俳句ポストが目に入る。

「玉砕の準備ばんたん青嵐」

一句ひねって投函した。

「玉砕って、なんだよ。最初からあきらめんなって、あれほど言ったろ?」
「うん。でもね、私、振られる。わかってるんだ」

一週間かけた告白計画。
長かった髪をバッサリ切って、浴衣を買って、朝と夜にパックをして。
君の言うこと全部聞いた。
好きな人のために一生懸命頑張ったこと、君に見ていて欲しかったんだ。

す、っと爽やかな風が吹いて、波打っていた私の胸が静かになった。
うん。
玉砕の準備は十分だ。

これまでの一週間とこれからの数分間、あなたの時間をジャックした。
もうそれだけで幸せだよ。

どーーーーん。

花火の音が鳴り響く。
夜空に輝く大輪の花をバックに私は言葉を絞り出す。

「先輩が好きだっていうのは嘘。あのね、私......」

想い出を今、始めるのだ。

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