見出し画像

来年の手帳についてぼやく

師走の声が聞こえてくると、そろそろ手帳の買い替え時期だ。心躍る反面、苦悩の日々が始まる。来年の手帳はどうしたものか。

ここ数年、MDノートのダイアリーを使い続けている。自分で日付を付け足すタイプで、カスタマイズ度も高い。余白も多く、落書きもできる。1番余計なものがついていない、こざっぱりした手帳で特段不満はない。

来年もこれを使い続けようと、先日文房具屋さんで細かな小物(手帳バンドとカバー)も手に携え、レジの列に並ぶ。並ぶその刹那、ふと、「トラベラーズノート」のダイアリーが目にはいる。かわいい。しかし、来年のダイアリーはMDノートに決めたのだから、他の商品に目移りすべきではない。

数年使っているMDノートなのだが、とにかく紙がいい。装丁がしっかりしている、丈夫なである。デザインもとてもいい。しかし、ひとつだけ問題がある。ダイアリーの形が、変形新書版なため、これにピッタリあう「下敷き」が販売されていない。仕方ないので、泣く泣く、この形に近い下敷きを使っている。これが微妙に小さくて使いづらい。

そこいくと、「トラベラーズノート」のダイアリーは、毎年、専用の下敷きが販売されている。もちろん形はぴったりな上、毎年、決まったテーマで、限定盤のグッズが販売される。今年は「コーヒー」がテーマ。もちろん、下敷きも「コーヒー」がテーマ。かわいい。

いや、だめだ。

今年もMDノートにするって、かたく決心したじゃないか。今更、トラベラーズノートの変更するなんて。文房具屋さんに行く前に、ネット検索しながら悩んだ末、やはり、紙質、デザイン、使い勝手、すべてのバランスから、僕はMDノートを選んだはずじゃないか。しかも、僕は、もう、購入レジに並んでいる。今、レジの女性に「こちらへ」と声をかけられている。

しかし、MDノートからトラベラーズノートに鞍替えするなら、お金を払う前の今しかない。
いや、だめだ。

トラベラーズノートの使用には、ひとつだけ問題がある。そう、カバーだ。このノートには専用の皮カバーが販売されている。いわば、このカバーがこのノートの「ウリ」なのだ。残念なことに、このカバーがお高い。デザインもよい、手触りもいいがお高い。

じつは、僕も、昔はトラベラーズノートを使っていたことがあり、このお高いカバーも所有していたこともあった。しかし、5年ほど前に紛失しており、手帳をトラベラーズノートダイアリーに変えるとなる、このお高い皮カバーを再度購入することになる。

ためだ、だめだ。

などと考えている間に、レジの会計が始まり、僕は来年使うMDノートダイアリーを購入したわけでした。危うく、トラベラーズノートに心移りするところだったが、すんででそれは回避された。

いえ、されたはずだった。

それから、数日後、たまたま、家のクローゼットの片付けをしている時に、見つけてしまったのだ。5年前に紛失してしまった、トラベラーズノートのお高いカバーを。なかなかの衝撃だった。もう、二度と会えないのだから、楽しい記憶さえ忘れてしまおうと心に決めた恋人に、駅の階段でバッタリ鉢合わせしてしまったような、あの感じ。いや、そんな経験はないけど。

とにかく、取り乱す。たまたま、家に妻はおらず、僕ひとりだったので、恥ずかしくはなかったけど、そのお高い皮カバーをバインダーの間から発見したとき、「うぐっ」という、漫画みたいな言葉が漏れてしまった。

見つけてしまった。これは、啓示なのか。
いやいや、まてまて。落ち着け渡辺。

そこから二晩ほど悩みました。

このまま、購入したMDノートダイアリーを使うべきか、トラベラーズノートダイアリーを新たに購入し、みつけたお高いカバーと共に使うか。暦は11月。タイムリミットは近づく。絶対絶命。

文房具の良い点は、安価なのに、質が良いところ。日本の文具は世界に誇れると思っている。これが仇となる。つまり、安価なために、買い替えてもいいとこ2000円くらいの追加出費。あまり、罪悪感を感じない。しかし、一晩悩んで、「今年もMDノートダイアリーでいくべし」と決めたあの苦労はなんだったのだろう。

そして、悪いのは昨今の流通事情。気持ちさえ決まれば、携帯ひとつで大手販売サイトから指先一本で商品が届く。しかも、数日で届く。

どうするべきか。
これは、人生をかけた大問題だ。

ぼくは、とうとう、日曜日の夜、大きな人生の決断を行う。一晩悩みつくして出した結末は、トラベラーズノートへの路線変更。やはり、トラベラーズノートの周辺グッズのデザインがかわいい。専用下敷きも、専用ステッカーもかわいい。

50歳すぎてたオッさんが文具にトキメクのは、客観的にみてキモいが、かわいいものは仕方ない。何日もかけて決めた決断を覆すのは忍びないが、もう、これは仕方ない。かわいいものには抗えない。これは、自然の摂理なのだから。

アマゾンは、そんなぼくを非難しなかった。

ネットサイトから、トラベラーズノートと周辺グッズの購入はスムーズだった。天からの抵抗はなかった。ということは、やはり、今回の路線変更は、運命に定られていたことなのかもしれない。

複雑な思いは、心に残したままにしよう。
なぜなら、この煮えきらない心残りこそが、使わずに引き出しに終われることになったMDノートダイアリーに対する、せめてもの弔いなのだから。

安らかに眠れ、使われないMDノートダイアリー2023


いいなと思ったら応援しよう!