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炭素の足あとで社会を変える海外サステナブルスタートアップ

昨年、菅総理による「2050年カーボンニュートラル」宣言がなされました。

東日本大震災以降、火力発電の割合が高止まりしている我が国において、脱炭素社会へ今一度歩を進める意思を表す宣言として、海外でも高く評価されているようです。

EU・イギリスをはじめ、アメリカ、中国など世界の大国が足並みを揃えて進めている気候変動に対する取り組みですが、「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ」という言葉で表現される温室効果ガスを排出する量と、削減する量を合わせて社会全体として差し引きゼロにしていくという考え方が基本になっています。

経済活動を行う上で、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを排出が避けられない業種も多く、不要な排出は抑えながらも、社会全体で排出量を相殺してゼロを目指していこうという考え方です。

事業ドメインが多岐にわたる大企業であれば、温室効果ガスの排出と削減の両方を自社の事業の範疇で行うことができます。しかし、多くの企業は自社単独で温室効果ガスの削減を進めることが難しいため、各企業に課された削減目標の達成をサポートするサービスの提供が始まっています。


今回は、世界を見渡して私自身が気になった、温室効果ガスの排出量(カーボンフットプリント)を計測し、社会全体でコントロールするためのサービスを提供しているスタートアップ・企業三社をピックアップして、未来の事業のヒントを探っていきます。



1. Ant Forest, China

こちらは2016年にアントフィナンシャルグループからローンチされたプログラムです。

2019年に国連から表彰されたので、ご存知の方も多いかもしれませんが、ユーザーの環境保護活動で貯まったポイントで遊べるミニゲームを通じて、実際の木を砂漠地帯に植えることができるサービスです。

自動車の代わりに自転車や地下鉄を使ったり、光熱費を削減できたりするとアプリにポイントが貯まっていき、そのポイントを使ってゲーム上で育てられる植物を購入できます。一定以上に植物が育つと、ゲームに連動して中国の砂漠地帯に実際の木が植えられるというプログラムになっています。

日本でも広くメディアなどで取り上げられたこのプログラムですが、アリペイプラットフォーム上で動き、今後、芝麻信用などの各種サービスと連携されていくことを考えると、5億人のアリペイユーザーを梃子に、一気に世界を動かし、今の状況を一変させる可能性を秘めています。

先日、アリババの競合であるWechatのテンセントでも、持続可能なイノベーションに対して500億人民元(約8300億円)の投資が発表されたばかりですが、今や経済大国となった中国が環境保護の取り組みを本気で進め、10億人を超えるユーザーが一気にそれまでの生活様式を変える未来が今まさに訪れようとしているのかもしれません。



2. Carbon Block, Canada 

こちらは2018年にカナダのマニトバ州で設立されたスタートアップです。

カナダでは既に炭素税制度が導入されており、産業ごとに定められた排出枠基準を超える温室効果ガスを排出する企業は税金が課税される仕組みになっています。

カナダは連邦制で州によって規制が異なりますが、環境優良企業が温室効果ガスの余剰排出枠を市場で取引できる州もあり、その地域では排出基準を超えた企業が、他社の余っている排出枠を買取ることで、全体の温室効果ガスの排出量を抑えています。

しかしながら、温室効果ガスの排出量と削減量の評価には、認定機関による十分な調査を経た認証が必要で、このように時間とお金がかかる評価に基づく排出量取引ができる企業は一部の大企業にとどまっています。

Carbon Blockは温室効果ガスの排出量を測定・検知するハードウェアとプログラム(Carbon Oracle)を提供し、各企業の排出削減量を統一的な指標で測定することで、企業の規模や排出量の多寡に関わらず、排出量取引を始められるサービスを提供しています。

排出量取引は州や国を跨ぐことも多く、二重取引の問題(一つの排出量を2つの企業と同時に交換できてしまうこと)が発生しやすいと言われています。

Carbon Blockではブロックチェーン上に取引を記録することで、二重取引を防止しています。

過剰な期待が集まるフェーズを終え、これからまさに真価を発揮していくであろうブロックチェーン技術とともに、Carbon Blockは今後本格化していく排出権取引をより一層後押しする存在になることでしょう。



3. Cloverly, US

Cloverlyは、2018年にアトランタで創業されたスタートアップです。

さきほどのカナダと同様、ヨーロッパやアメリカの一部の州など、温室効果ガスの削減が強く進められているエリアでは、企業に対して業種ごとに排出量の基準を定め、基準を超える企業は基準を下回る企業から排出権を購入して排出量をコントロールすることが求められています。

排出量の多い企業は企業努力では賄いきれず、排出権購入にかかる費用をサービスの価格に上乗せすることで対応しています。

同じ企業が提供するサービスでも温室効果ガスを多く発生するものとそうでないものがありますが、ユーザーは企業によって等しく値上げされた商品にお金を支払うことになります。

Cloverlyでは、ユーザーが利用したサービスで発生する温室効果ガスの正味の排出量を自動で計算し、その排出量相当の排出権購入費用をユーザー自身に請求するサービスを提供しています。

具体的には、各企業のWEBサイト上に組み込み可能なAPIを提供することで、ユーザーがEコマースやライドシェア、エアラインなどを決済する際に、そのサービスが排出する温室効果ガス相当量の排出権取引費用を決済ページ上でユーザーに追加課金します。

各取引ごとに排出権相当金額が計算されるため、ユーザーは自分が利用するサービスがどれだけ温室効果ガスを排出するのかを理解できますし、都度追加費用が発生するので、その負担を減らそうという気持ちが働き、結果として排出削減に対する意識も高まります。

私自身レジ袋有料化をきっかけにマイバックを利用するようになったように、ユーザーは少額でも取引ごとに追加でお金を支払うことで温室効果ガスの問題の重要性を意識するようになります。

企業のサイトに該当のAPIを組み込むだけで実装できるという簡便さに加え、ユーザーの排出削減意識に伴って、企業の側もより排出量が少ないサービスを提供する意欲を高めることができるCloverlyは、ユーザー・企業一体となって脱炭素社会の実現を強く後押しするこれからのサービスのあり方を象徴する企業の一つとなるでしょう。


今回は、カーボンフットプリントを計測し、そのバリューを様々な形に変えることで人々の意識や行動の変革を促すサービスを見ていきました。

社会全体で削減しなければならない温室効果ガスに対する意識を、企業から消費者まで一人一人に根付かせるために、ゲーミフィケーションによりユーザーの参加を促したり、取引可能な単位を変えたり、負担先を企業からユーザーに変えたり、様々な工夫を凝らして人々の行動を変えていこうとしている各企業の取り組みは、他の事業開発でも参考になると思います。


次回も引き続き、私自身の事業開発の参考にしたい意図も含め、世界のSustainability Businessについてリサーチしていきたいと思います。

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