【資料】1965年09月01日「日韓請求権条項と在韓私有財産等に対する国内補償問題」

日韓請求権条項と在韓私有財産等に対する国内補償問題」(外務省文書)をテキストデータ化したものです。重要と思われる箇所を太字にしました。

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    (日韓請求権条項と在韓私有財産等に対する国内補償問題)
 第二条3で日本国民の財産等に対する措置及び日本国民のすべての請求権に関して、いかなる主張もすることができないこととなれば、これらの国内補償の問題が生ずることとならないか。

 第二条3は、現存する実体的権利に対し相手国において執られる国内措置についていかなる主張もしないこと及び協定署名前の事由に基づぐ相手国に対するすべてのクレームを放棄ずることを定めたものであるが、日本国民に対する国内補償の問題は、次の理由により生ずることはないと考える。
(1) 第二条3の規定
 第二条3前段にいう措置の対象となる日本国民の在韓財産権に
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ついては、韓国による措置が執られた場合、日本国として文句をいわないこと、すなわち、この協定がなけれぱ両国間の交渉の主題として国際法上韓国に対して提起することができるいかなる申入れをも行なわないことを約束することとなる。いいかえれぱ、第二条3前段の規定は、韓国による国内措置の結果生じうべき国家間の国際法上の権利義務関係を規律するものである。しかしながら、韓国が国内措置を執るときは、当然に私有財産の処理がなされることになるのであるから、その措置には財産を没収することも含まれることはいうまでもない。
 もっとも、日本国民の在韓財産権で第二条3にいう措置の対象となりうるものは存在しないと思われる(注)から、 在韓財産について実際に第二条3の規定が働くのは、末段の請求権(クレーム)についての主張がなされえないとされている規定のみであると考えてさしつかえない。この規定によって、わが国は、日本国
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民の請求権(クレーム)について、国家間の問題として韓国に対していかなる主張も提起しないことを約束することになる。
(注、在韓財産のうち、三十八度線以南の分は一九四五年の軍令三十三号により没収され、平和条約第四条によって効力を承認しており、三十八度以北の三角地帯の分は北鮮により没収された後一九五三年の休戦協定の後韓国政府が処分した。ただし、だ捕された漁船については後記参照)

(2) 外交保護権の放棄と補償問題
  右に述べた第二条3の規定の意味は、日本国民の在韓財産に対する韓国の措置又は日本国民の対韓クレームについては、国が国際法上有する外交保護権を行使しないことを約することであるが、一般に外交保護権は、国際法上、国際法の主体たる国に認められた固有の権利であり、きわめて高度の政治的判断によりその行使、不行使が決せられるものであって、国はその判断について自国民に対し補償の義務を負うべき限りではない。
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(3) 憲法第二十九条三項との関連
  第二条3により韓国が執る措置の対象となる日本国民の私有財産権については、当該措置が執られた結果権利が消滅することとされたときは、その財産権の消滅はこの協定によって直ちに行なわれるのではなく、相手国政府の行為(措置)によってなされることとなる(規定の直接の効果は、前記のとおおり日本政府をして外交保護権を行使しえない地位に立たせることとなる。)換言すれば、その財産権の処理は、日本国の法律によらずして日本国の主権が及ばない外国の法律の適用を受けるものであるから、憲法二十九条三項の問題とはならないと考えられる平和条約第十四条に関する従来の国会答弁と同じ。)。また、請求権問題の戦後処理の方式として、いわゆる積み上げ方式をとらずに第二条3のごとく相互に措置を執る方式によったのは、交渉の経緯上それ以外の途がなかったからであり、国民の財産権を相殺して請求権
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を解決したということではないから、国民の財産を当てたことにはならない。
 なお、在韓財産であって実体的権利としてその協定署名の日に韓国にあるものは前記のとおりまず存在し左いと認められるから、憲法第二十九条3との関係について財産没収等の措置による補償問題が生ずる可能性はもともと発生しないと考えられる。
(4) だ捕漁船の問題
 だ捕漁船に係る日本国民の財産権は韓国の国内法上は、没収の結果現存しないものとなっていると認められるので、クレームの問題となる。(もっとも、だ捕された漁船のうち、韓国裁判所において没収判決がいまだ確定していないものがあれば、これについて没収ないし権利の消滅の措置が執られても、第二条3前段により、その措置について日本としては抗議をなしえないということになる。)
 だ捕漁船に関しては、この規定により、日本国として韓国のだ
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捕行為に基づいて生じた日本国の請求権を放棄する結果、船主等が韓国の没収処分に対する請求を提起した際の外交保護権を行使しない約束をするわけである。すなわち、これらのだ捕漁船の処理は一般日本財産の場合と同様に日本国の法律によらずして外国の法律の適用によるものであるから、憲法二十九条三項の問題とはならない。損害を受けた国民に対し、どのような救済の措置を執るかは政策上の配慮により慎重に検討すべき問題である。
(5) いわゆる米国解釈との関連における考慮の問題
  今回の請求権問題の処理に当たって、米国解釈との関連において在韓財産の処分について。考慮が払われたか否かについては、今回のような解決方式が採られた当然の帰結として、財産、請求権の具体的な評価が行なわれなかった。すなわち、米国解釈にいう「韓国内の日本資産を韓国政府が引き取ったことにより、日本国に対する韓国の請求権がいかなる程度まで消滅され、又は満たされたと認めるかについての決定」が特別
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取極に含まれるであろうということであるが、ここに予見されているような特別取極自体がつくられず、これを棚上げするような解決方式がとられた次第であるから、いわゆる関連性の問題も取り上げられる場がなかった次第である(しかし、経済協力を供与し、これと併行して請求権問題を最終的に解決するとの方式を決意するに際しては、この米国解釈の点も十分念頭に置いていた次第であり、その意味においては、米国解釈における関連性の問題に対する考慮は今回の合意において払われたということができる。)。

(注 韓国側においては、八月十日の同国国会特別委員会での質疑応答中、張経済企画院長官は、「民間人の対日請求権は確実な証拠さえあれば補償する方針である。」旨を述ぺている。)

この資料は 日韓会談文書 情報公開アーカイブズ から入手したものです。
資料収集・分析・デジタル化には膨大な時間や費用がかかっていると思われます。アーカイブス維持のために少額ながら「寄付」をいたしました。みなさまもご協力をお願いいたします。

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