ITエンジニアにとって転職先の企業アイデンティティはなぜ大切か
ITエンジニアの会社選びについての記事の8回目です。今回の記事では、企業の各種属性のうち、ことに企業のアイデンティティを形作るもの――「経営理念」と「同業他社に対する差別化要因」についてとりあげたいと思います。これまでの記事はこちら。
経営理念――これが自分に合わない企業で、自分のキャリアプランが立てられるか?
「経営理念」「企業理念」「コーポレートビジョン」「Our mission」……、 企業ホームページには必ずこの手のページがあります。こんなもの誰が読むのか、という感じもしますが、転職活動時には情報収集の一環として、チェックすべきです。ここに書かれているべき、「会社として実現したいことは何か?」は自分がその企業の社員になる場合、大変重要な意味を持つからです。
チェック観点は二つ。自分にとって理解・共感できるものか。事業との関連が理解しやすいものか。この観点で難がある企業は、避けた方が無難、入ってもろくなことが無い。と言えます。では、なぜでしょう?
会社として実現したいことが自分にとって理解・共感できないと、自分のキャリアプランと、会社のビジネスが社員に求めるスキルが、大きくかけ離れるリスクが極めて高いです。 以前の記事で、会社のビジネスと自身のキャリアプランの乖離こそが、最も正当な離職理由であるという話をしました。会社のビジネスどころか「会社として実現したいことは何か」すら分からない会社に、自身の成長を促す案件のアサインを要求しても、そもそも会話が成立しそうにもありません。
経営理念と事業との関連が理解しづらければ、経営理念と事業内容、その双方の継続性と信頼性が疑われます。立場を入れ替えて求職者の履歴書になぞらえて考えてみましょう。経営理念は、自己PR欄や志望動機のようなもの。一方、事業内容は応募者の経歴のようなもの。両者に整合性がなければ、応募の履歴書の記載内容そのものが疑われても仕方ありません。
経営理念をめぐるエピソード
経営理念を確かめることの大切さを示すエピソードを一つ披露しましょう。
ある社長は、自社の経営理念についてこう語ったそうです。「私たちの会社の使命は、ITエンジニアを社会に供給することです。この時代、たいへん重要な役割を我が社は担っていると自負しています」。この理念そのものは私にもよく理解できるし、正当なものだと思います。
ところで、この社長の言う「ITエンジニア」とは、自社のプロパー正社員のことを指していました。つまり社長は社員エンジニアのことを、自社の使命をともに果たす協業者としてではなく、自社による「社会への供給物」としてみなしていたのです。
能天気なこの社長は、この理念を自社のエンジニアたちを前に開陳したそうです。それまで会社に対して不満をもっていたエンジニアはこれを聞いてようやく、目からウロコがおちたような思いがして、転職活動を始めたんだそうです。よかったですね。
他社との差別化要因――無形資産として育まれる
「会社として実現したいことは何か?」が経営理念なら、「なぜこの会社でなければ実現できないか?」が、同業他社に対する差別化要因。これも気にせずにはいられませんね。
他社との差別化要因は、四季報などに短評で必ず書かれている通り、会社の将来性や収益性を予想する材料として持って来いですが、私の一連の記事でしつこく見ている「エンジニアの成長機会」という観点でも、重要です。
なぜなら、他社との差別化要因というもの、多くの場合は社員スキルや社内ノウハウなど、無形資産として育まれるものだからです。
会社に差別化要因を自覚的に育む姿勢があれば、キャリアプランがあり成長したいエンジニアと、社員スキルや社内ノウハウを育てたい会社とのコミュニケーションがうまく行くことは、想像に難しくありません。
まとめと次回予告
今回は企業の各種属性のうち、「経営理念」と「差別化要因」といった企業のアイデンティティを形作るものこそが、企業がエンジニアに成長機会を与えようとする姿勢を大きく左右することをみました。
次回は企業の各種属性のうち、受注案件の構成などの営業実態や、社員構成など、社内的な側面で見るべきポイントをあげたいと思います。
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